オフィスビルや工場など非住宅が使用するエネルギーの削減をおこない、環境への配慮を目指すZEBですが、企業や地域の実情に合わせて4段階のランクがあります。
その中でもハードルが低く、ZEB化への第一歩となるのが「ZEB Ready」です。
この記事では、ZEB Readyの基準や2025年に使える補助金制度、企業が得られるメリットについて解説します。
ZEB Readyを実現するための具体的な事例も紹介しますので、導入を検討する際の参考にしてください。
ZEBとは
ZEBとは、公共施設やテナントビルなど非住宅で使用するエネルギーの収支ゼロを目指す認証制度です。
環境省が運営しており、主に次の3つの条件をクリアすることでエネルギー消費量の削減を実現します。
- 省エネルギーシステムで建築物内で消費するエネルギーを減らす(パッシブ技術)
- 建築物で消費するエネルギーを効率よく使う(アクティブ技術)
- 使用するエネルギーを建築物で生み出す(創エネ技術)
エネルギー消費量の実質ゼロを目指すには、高い省エネ性能と再生可能エネルギーを創出できる環境が必要です。
建築物の規模や地域の気候によっては実現が難しいため、実情に合わせてレベルが選べるよう、次の4つの段階が設けられています。
引用:環境省 ZEB PORTAL「ZEBの定義」
2030年までに新築建築物の平均でZEB Readyへ
2020年10月に日本は、「2050年までに温室効果ガスの排出を全体でゼロにする」というカーボンニュートラル宣言をしました。
これにより非住宅では、2030年までに新築建築物の平均でZEB Ready化の実現を目指す政策目標が設定されています。
引用:環境省「ZEBロードマップフォローアップ委員会とりまとめ」
ZEB Readyとは
ZEB Readyとは、将来的に4段階の最上位である「ZEB」の取得を目標に、省エネ性能の向上に力を入れる先進建築物です。
ZEBと同レベル程度の省エネ性能が設けられていますが、再エネに関する目標値を設けていないのが特徴です。
引用:環境省「建築物のZEB化促進に向けた取り組み」
エネルギーを極力必要としない「パッシブ技術」と、エネルギーを無駄なく上手に使う「アクティブ技術」で、エネルギー消費量削減を目指します。
例えば夏場に、断熱性能の高い断熱材や窓を採用することで室内に侵入する外気温をシャットアウトし、高効率空調で室内環境を快適に保つシステムなどが該当します。
ZEB Readyの認証基準
ZEB Readyの認証基準は、一次エネルギー消費量を50%以上削減することで、再エネの基準は設けられていません。ただし、補助金制度を利用する場合は再エネ設備の導入が必須となる場合があります。
引用:環境省 ZEB PORTAL「ZEBの定義」
ZEBシリーズでも比較的取り入れやすいランクであり、ZEB化実現への第一歩という役割もあります。
ZEB Readyを取得する流れ
環境省が想定する、新築非住宅で補助事業を利用して認証を取得する際の基本的な流れは、下記のとおりです。
1年目
- ZEBの基本設計
- ZEB設計の事業者を公募
- ZEB詳細設計
- ZEB認証手続き
2年目
- ZEB補助事業申請
- 施工業者の公募
- 施工
- 竣工検査
- 補助事業の実績報告書提出
認証には新築で2年程度、現段階での建築物の評価が必要である既存建築物ではさらに時間がかかるとされています。
補助事業の申請は年度初めに行う必要があるので、申請手続きは前年度末までに終えるのが理想です。
企業がZEB Ready認証を受ける3つのメリット
企業がZEB Ready認証を受けるメリットを、3つ解説します。
エネルギーコストを削減できる
電気などのエネルギー使用量を削減できれば、必然的に電気代なども削減されるため、ランニングコストの軽減につながります。
引用:環境省「ZEB化のメリット」
仮に年間光熱費が2,500円/㎡で、床面積が8,000㎡のオフィスビルの場合、年間で1,000万円前後のコストダウンが実現する可能性があります。
建築物や企業の価値が向上する
近年、国内外で持続可能な社会づくりが注目されており、環境に配慮しているZEB Readyを所有する企業の価値が向上しやすい傾向です。
ランニングコストも軽減するためテナントとしても需要が高く、不動産価値の向上も期待できます。
引用:環境省「ZEB化のメリット」
テナントビルの場合、テナントを借りている企業はもちろん、オーナーの光熱費の負担も軽減します。
光熱費の削減やブランドイメージの良さから、賃料も高く設定しやすいので、メリットが高いといえるでしょう。
ZEBよりも初期費用や導入費用を抑えやすい
基準値が設定されているのが省エネ性能のみなので、他のシリーズよりも初期費用を抑えやすいのがメリットです。
既存住宅に導入する際も省エネ性能に注力できるので、ZEBにハードルの高さを感じている場合でも挑戦しやすいでしょう。
ZEB Orientedも再エネ基準が設けられていませんが、未評価技術を採用した設計が必須なため、初期コストがかかりやすい傾向です。
未評価技術
- CO2濃度による外気量制御
- 空調ポンプ制御の高度化
- 冷却塔ファン・インタバーター制御
- 自然換気システム
- 照明のゾーニング制御 など15項目
引用:一般社団法人環境共創イニシアチブ「経済産業省によるZEB実証事業について」
【令和7年度】ZEB Ready取得に使える補助金制度
2025年3月現在、2025年度に新築・改築予定の建築物のZEB Ready化に利用できると公表されている補助金制度は、下記のとおりです。
事業名 | 補助要件 | 運営元 |
---|---|---|
ZEB普及促進に向けた省エネルギー建築物支援事業 | ・エネルギー管理体制の整備 ・ZEBの基準を満たす ・需要側設備等を通信・制御する機器の導入 ・再エネ設備の導入(新築のみ) ・事業にZEBプランナーの関与がある など |
環境省 |
LCCO2削減型の先導的な新築ZEB支援事業 | ・エネルギー管理管理体制の整備 ・ZEB Oriented基準以上の省エネ性能を満たす ・事業にZEBプランナーの関与がある ・再エネ設備の導入 ・LCCO2の算出及び削減 |
環境省 |
ZEB Readyに再エネ基準は設けられていませんが、補助金制度を受ける要件として求められるため、補助金の利用を検討する際は再エネ設備の導入を検討しましょう。
また、ZEB Readyは他のZEBシリーズと比較して初期コストがかかりにくい分、補助率も低く設定されています。
ランク | 補助率 |
---|---|
ZEB | 3/5 |
Nearly ZEB | 1/2 |
ZEB Ready | 1/3 |
ZEB Oriented | 1/3 |
引用:環境省「LCCO2削減型の先導的な新築ZEB支援事業」
ZEB Ready導入の参考になる事例5選
実際にZEB Readyを導入し、成功した建築物の事例を5つまとめました。
建築物 | 事業者 | 実施ポイント |
---|---|---|
特別養護老人ホーム(既存) | 社会福祉法人五常会 | ・利用者が高齢者のためエネルギー消費量が多く、省エネ設備の導入だけでなく躯体の断熱対策にも注力 ・利用者の生活を確保しつつZEB化するため、順次移動しながらの改修を実施 |
市役所庁舎(既存) | 高島市 | ・躯体スラブ放射冷暖房システムや床吹出空調システムなど最新の空調システムの採用 ・実施設計段階で計画工事費を超過したため、使用の見直しや補助金の活用などを検討 |
学校給食センター(既存) | 土佐市 | ・巨大地震後の電源断絶を想定し、ガスと電気のエネルギーミックスの厨房を提案 ・エネルギー多消費施設であるため、太陽熱利用給湯システムを採用 |
文化体体育活動センター(既存) | 白石市 | ・既存建築物のデザイン性を考慮しつつ、空調、給湯、照明設備の大規模改修と、太陽光発電システム、蓄電池設備の導入 ・災害時の拠点施設として防災性能向上を重視 |
オフィスビル(新築) | 株式会社ソルコム | ・省エネ施策として日射調整ルーバー、複層ガラス、高効率空調機、EMS等を採用 ・再エネ施策として太陽光発電、蓄電池、EV充電器の設置 |
他の事例も参考にしたい場合は、一般社団法人環境共創イニシアチブの「ZEBリーディング・オーナー一覧」より確認できます。
ZEB Readyでよくある質問3選
ここでは、ZEB Readyの導入を検討する際によくある質問を3つ解説します。
ZEB Readyにかかる費用は?
ZEB Readyは高断熱の資材や高効率の省エネ設備が必要なので、一般的な建築物よりもコストがかかるのは避けられません。
しかし、環境省の「建築物のZEB化推進に向けた取り組み」によると、省エネ基準相当の建築物と比較して約9〜18%程度のコスト増だと試算されてます。
一般的な建築物よりもエネルギー消費量が軽減できる分、光熱費の削減効果も期待できるので、長期的に考えれば取り戻せる金額といえるでしょう。
ZEB Readyの義務化はいつ?
日本では2050年のカーボンニュートラル実現に向け、2030年までに非住宅の省エネ基準をZEB Ready基準まで引き上げを目標にしています。
まだ目標段階ですが、2030年度に温室効果ガスの46%削減(2013年度比)を目指しているため、今後非住宅のZEB化が促進されていくのは確実でしょう。
ZEB Readyには太陽光発電が必須?
前述したとおり再エネ基準を設けていないため、太陽光発電システムなど再エネ設備が必須ではありません。
ZEB Readyは、最上ランクのZEBを取得するための基盤づくりとして、断熱性能や高効率な省エネ設備の導入による省エネ性能の確保を行うのが目的です。
ただし、補助金制度を利用する場合、再エネシステムの導入が必須のケースがあるので注意しましょう。
まとめ
ZEB Readyは省エネ性能に特化し、太陽光発電などの再エネ設備が必須でないため、ZEBシリーズの中でも導入しやすいランクです。
2030年度までに新築建築物でZEB Readyの省エネ基準が義務化される可能性があるため、これから建築計画を実施する新築建築物で積極的に取り入れたい制度です。
ZEB Readyには難しい省エネ計算が必要になるので、本来の設計業務等に集中したい場合は省エネ計算代行業者への外注をおすすめします。
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