東京都が実施する省エネ住宅普及促進事業「東京ゼロエミ住宅」の基準が、2024年10月に引き上げられました。
新基準は最高水準でUA値0.35以下と、極寒地並みの性能が求められます。この水準となると、これまで手掛けた経験がない建築会社もあるかもしれません。
本記事では、東京ゼロエミ住宅の基準引き上げのポイントと内容を、詳しく解説します。
東京ゼロエミ住宅の新基準を理解し、顧客に提案・説明するヒントに役立ててください。
東京ゼロエミ住宅の概要
はじめに、狙いと要件、メリットの観点から、東京ゼロエミ住宅の概要を解説します。
東京ゼロエミ住宅の狙い
東京ゼロエミ住宅は、人と地球環境にやさしい住宅の普及を目指す、東京都独自の制度です。2050年のカーボンニュートラル達成に向けた施策の一環として始まりました。
東京都で排出される温室効果ガスのおよそ3割は、家庭から発生しています。そこで東京都は、地域事情を踏まえた省エネ住宅に対する助成金を設置しました。
助成金を活用してもらい、東京都内への省エネ住宅普及を促進したい狙いがあります。
東京ゼロエミ住宅の要件
東京ゼロエミ住宅の要件は、2つのポイントがあります。
- 断熱性能で基準を満たすこと
- 高効率な住宅設備を採用すること
東京ゼロエミ住宅の性能は、UA値と省エネルギー基準値で「性能基準」を達成する必要があります。この基準が、2024年10月に引き上げられました。
詳しい数値は、次章で解説します。
あわせて、全室LED照明の採用や高効率な空調設備・給湯設備の設置など、高効率な住宅設備の採用も要件です。
2つの要件を満たし認証を得ると、助成金を受けられます。
東京ゼロエミ住宅のメリット
東京ゼロエミ住宅には、手間暇をかけて認証を得るだけのメリットがあります。
まず、住宅の性能が高いことです。東京ゼロエミ住宅は、国が定めるZEHより高い基準が定められています。断熱性や気密性の高い住宅が竣工できるため、暮らす人の快適性が向上し、健康維持に役立ちます。また、高い断熱性能は躯体内結露を抑制し、住宅の長寿命化に貢献します。
高効率設備の設置によって、光熱費削減が期待できる点も、訴求力のあるメリットです。
【2024年10月開始】東京ゼロエミ住宅の基準引き上げポイント
2024年10月より、東京ゼロエミ住宅の基準が引き上げられました。
変更になったポイントは、次の3つです。
- 性能基準
- 助成金額
- 再エネ設備の設置
それぞれを詳しく解説します。
1. 性能基準の引き上げ
2024年9月までの基準(旧基準)に比べ、2024年10月以降の基準(新基準)は全体的に引き上げられています。1〜3で定められていた旧基準のうち、低いほうの2水準が統合され、新しく最高水準のAが登場しました。
東京ゼロエミ住宅の性能基準は、ZEH基準を上回ります。
<参考>東京都のZEH基準
項目 | 基準 |
---|---|
UA値(外皮平均熱還流率) | 0.6 |
省エネ基準からの削減率 | 20%以上 |
東京ゼロエミ住宅の最高水準Aは、北海道地域のZEH基準に相当します。
寒冷地に対応できる高性能住宅が求められている点を、押さえておきましょう。
2. 助成金額の引き上げ
性能基準の引き上げに伴い、助成金額も引き上げられました。
これまで、戸建住宅では210万円・集合住宅では170万円が最大の助成額でした。新しい基準では、最大で戸建住宅で240万円・集合住宅で200万円の助成が受けられます。
3. 再エネ設備(太陽光発電設備等)の設置が原則必須化
新しい基準では、再生可能エネルギー設備の設置が原則必須となりました。再生可能エネルギー設備は様々ありますが、一般の戸建住宅・集合住宅では、実質的に太陽光発電システムの一択です。今後、東京ゼロエミ住宅では太陽光発電システムの搭載が原則必須となった、と解釈して構いません。
これまで東京都は、狭小住宅が多い地域特性を踏まえ、太陽光発電システム設置を要件とはしてきませんでした。顧客も、同じように把握している可能性があります。東京ゼロエミ住宅の認証を希望する場合、丁寧な説明が必要になるでしょう。
太陽光発電システムの設置には、別途助成が受けられます。
オール電化住宅 | オール電化以外の住宅 | |
---|---|---|
3.6kW以下 | 13万円/kW(上限39万円) | 12万円/kW(上限36万円) |
3.6kWを超えて50kW未満 | 11万円/kW | 10万円/kW |
※50kW以上は対象外
※東京の地域特性に対応した製品には追加助成あり
詳しくは東京都環境局・助成制度のページをご覧ください。
ただし、屋根面積が狭小であるなど、物理的に太陽光発電設備の設置が困難な場合は、設置が免除されます。
蓄電池システム・V2Hへの助成
太陽光発電システムとともに設置を検討しやすい、蓄電池システムとV2Hにも助成があります。
蓄電池システムは機器費や材料費、設置費の4分の3まで助成を受けられます。
上限額は15万円/kWです。
V2Hは、機器費の2分の1まで助成され、上限額は50万円です。
太陽光発電システムを設置し、電気自動車も所有している場合は、上限100万円までの満額助成が受けられます。
それぞれ細かな要件や例外があるため、東京都環境局・助成制度のページでご確認ください。
新基準に関わる申請スケジュール
東京ゼロエミ住宅は、新しい基準が施行される2024年10月1日を境目として、適用される基準と助成額が変わる点に注意してください。
2024年9月30日までに設計確認申請を行った案件には、旧基準と旧助成額が適用されます。設計確認申請が2024年10月1日以降だった場合は、新基準・新助成額が適用されます。
東京ゼロエミ住宅の申請手続きの全体像
東京ゼロエミ住宅は、スケジュールに則った申請が必要です。
申請手続きの全体像を押さえておきましょう。
東京ゼロエミ住宅の助成を受けようとする建築主は、着工前・工事中・完了後の3つのタイミングで申請を提出します。
- 着工前
設計確認審査申請を提出します。提出先は、登録済みの認証審査機関です。
- 工事中
工事進行中(設計確認書の交付日から90日以内)に、助成金の交付申請をクール・ネット東京に提出します。
- 工事完了後
工事が完了したら工事完了検査を申請し、東京ゼロエミ住宅認証書の交付を受けます。その後、助成金の実績報告を提出します。
東京ゼロエミ住宅の基準引き上げに伴う課題
東京ゼロエミ住宅、省エネ住宅の普及には、助成額の引き上げだけでは解決できない課題が存在します。課題を看過していては、顧客が省エネ住宅を選択する可能性は高まりません。
東京ゼロエミ住宅の基準引き上げに伴う課題を3つ解説します。
建築コストがかかる
あらゆる物価、さらに住宅ローン金利も上昇局面にある今、省エネ住宅の建築はコスト面の課題を抱えます。
国土交通省の試算では、住宅を省エネ基準に適合させるために1戸あたり約87万円、総建設費に対して約4%の追加コストがかかるとされます。
※省エネ基準への適合のための追加コスト等の試算例について(住宅)|国土交通省
上記の試算は、2018年のものです。急激に高騰する建築費用を考慮すると、追加コストは4%では済まなくなっているかもしれません。
実際、建築資材の物価指数は2015年と比べて、約40%も上昇しています(2024年9月時点、指数138.9)。
※建設資材物価指数(2015年基準)|⼀般財団法⼈ 建設物価調査会
建築主が高コストの根拠を正しく理解できるよう、細やかな説明が必要です。
認知度が低い
不動産情報サービスのathomeが実施した調査では、ZEHを知っている・聞いたことがある人は6割に達しましたが、「人に説明できる」レベルで知っている人の割合は15.5%でした。
パナソニックホームズの調査でも、ZEHを内容理解している人は16.2%。また、省エネ性能表示制度の認知度は11%となっています。
省エネ住宅に対する市場の認知度は、まだ高いとは言えません。東京ゼロエミ住宅を勧めたくとも、建築主側に認識がなく、理解を得にくい可能性もあると考えておきましょう。
手続きが煩雑
東京ゼロエミ住宅の助成を受けるためには、煩雑で細かな手続きを経る必要があります。実質的な申請者は建築会社であり、人手不足の昨今、手続きにかかる事務負担も軽視できません。
計算や申請など、外注できる業務はアウトソーシングし、人的リソースをコア業務に集中させる戦略もおすすめです。
東京ゼロエミ住宅申請前に知っておきたい注意点
建築会社側が知っておきたい、東京ゼロエミ住宅に関する注意点を、2つ解説します。
他の補助金・助成金との併用可否
東京ゼロエミ住宅と、他の補助金・助成金との併用可否は下の通りです。特にZEH補助金とは併用できない点に注意してください。
東京ゼロエミ住宅 年度予算に対する消化率
2024年度分として東京ゼロエミ住宅に割かれた予算は、約248億円です。
予算には上限があり、早めの申請が必要な点にも注意が必要です。
※令和6年度 東京ゼロエミ住宅導入促進事業|クール・ネット東京
省エネ計算の代行・建築物の性能評価は「環境・省エネルギー計算センター」にお任せください
東京ゼロエミ住宅の基準が、全体的に引き上げられました。
国内最高水準ともいえる省エネ住宅の建築が必要になり、一層精緻な設計が必要になります。
同時に、省エネ計算や省エネ適合性判定業務の煩雑化も予想されます。
省エネ計算や省エネ適判・届出、建築物の性能評価などは、累計2,600棟以上の省エネ計算実績をもつ環境・省エネルギー計算センターにご相談ください。
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※専門的な内容となりますので、個人の方は設計事務所や施工会社を通してご相談された方がスムーズです。