近年、世界的な脱炭素対応の潮流を受け、住宅においても一定の省エネ性能が求められるようになりました。
省エネ性能というのは、できるだけエネルギーを使わずに建物内の環境を整える性能と、整えた室内環境を維持するための断熱性能の大きく2つに分類されます。
この記事では、断熱性能を測るために必要となる「外皮計算」について、わかりやすく解説します。
ZEH(ゼッチ)やBELS(ベルス)の導入を検討されている方は、ぜひ最後までご覧ください。
外皮性能基準とは
まず「外皮」というのは、建物の外壁、窓、床、屋根、天井など、室内と室外を分け隔てる部分を指します。
「外皮性能」は、これら外皮の断熱性能のことで、室外の暑さや寒さ、日射の影響で熱を失わないなど、断熱性能が高いほど高評価です。
この外皮性能には基準が設けられていて、建築物が備えるべき省エネ性能の確保のために必要な建築物の構造及び設備に関する基準として、一次エネルギー消費量基準と合わせて省エネ基準と呼びます。
対象となる建築物
省エネ性能評価において、外皮基準が適用される建築物は住宅のみで、非住宅は対象外です。
ただし非住宅においても、エネルギー効率を測るための「一次エネルギー消費量基準」の計算にて、間接的に外皮計算を実施します。
住宅では、建築設備と断熱設備は分離してその性能を判定しますが、非住宅では、建築設備の性能の一部として外皮計算を実施するのが特徴です。
つまり、省エネ性能を測ろうとする建築物は、全用途において外皮計算が必要ということになります。
外皮性能を計算するための3つの方法
では、具体的に外皮性能を計算するためには、どのような方法があるのでしょうか。主に3つの方法があるのでそれぞれ解説していきます。
専門家に相談する
まずおすすめなのが、省エネ計算に特化した代行会社に相談してみることです。外皮計算は単体で行っても意味が乏しく、一次エネルギー消費量計算と合わせて行うことで、各種環境基準への適合やBELSやZEHなどの申請に活用できます。
また、専門機関には過去から蓄積された計算のノウハウや、実際の住環境を快適にするための知見が蓄積されているので、時間を効率的に使いたい設計者や施主の方は、専門家の活用を検討してください。
外皮計算ソフトを使う
外皮性能計算のエクセルシートが、「一般社団法人 住宅性能評価・表示協会」のHPにて公開されています。
ダウンロードページ:住宅の外皮平均熱貫流率及び平均日射熱取得率(冷房期・暖房期)計算書
このエクセルシートは、目的別に「木造戸建て住宅」「RC造等共同住宅」「部位U値計算シート」に分かれており、評価対象となる住宅の種類によって使い分けてください。
なお同協会では、鉄骨造に対応したシートは公開しておらず、別団体「建築研究所」の「住宅・住戸の外皮性能の計算プログラム」が活用できます。
外皮計算マニュアルを活用する
上記エクセルシートを活用せず、独自に計算する方法もあります。
まず、各外皮部分の面積を求め、部材の性能値と補正係数を乗じます。
そして、算出した数値を外皮面積の合計値で割ることで、後述する外皮平均熱貫流率(UA値)と冷房期の平均日射熱取得率(ηAC値)を求めることが可能です。
ただし、こちらの計算はかなり細かい計算が必要となり、素人が行うと数値のミス等が発生するため注意してください。
詳しくは、令和2年度国土交通省補助事業「住宅省エネルギー技術講習テキスト 基準・評価方法編[第2版]」をご覧ください。
※上記は令和2年度版であるため、最新版がないか確認してください。
住宅における外皮性能
室外の暑さや寒さ、日射の影響で熱を損失せず、温度を一定に保つほど評価は高くなります。
具体的には、「外皮平均熱貫流率」と「冷房期の平均日射熱取得率」の2つが評価基準です。
では、これから詳しく説明します。
外皮平均熱貫流率(UA値)
UA(ユー・エー)とは、室内と外気の熱の出入りのしやすさの指標で、値が小さいほど熱が出入りしにくく、断熱性能が高いことを示します。
計算方法としては、建物内外温度差を1度としたときに、建物内部から屋外へ逃げる単位温度差あたりの熱量を、外皮面積で割ることで算出可能です。この際に、換気による熱損失は除きます。
【計算式】
UA(W/㎡・K)=(単位温度差当たりの外皮総熱損失量)➗(外皮総面積)
断熱性能を高めるために、壁、床、天井に断熱材を敷き詰めたり、二重窓にしたりすることで対応します。
冷房期の平均日射熱取得率(ηAC値)
ηAC(イータ・エー・シー)とは、太陽日射の室内への入りやすさの指標で、値が小さいほど日射が入りにくく、遮蔽性能が高いことを示します。
具体的には以下の計算式となり、単位日射強度当たりの日射により建物内部で取得する熱量を、冷房期間で平均し外皮面積で除したものです。
【計算式】
ηAC=(単位日射強度当たりの冷房期の総日射熱取得量)➗(外皮総面積)✖️100
地域区分
日本では北海道から沖縄まで、日射環境や気温に大きな違いがあるので、建築地によってUA値とηAC値の基準に差があります。
基準値は全国を8地域に区分されており、市町村ごとに細かい基準が割り振られています。
たとえば東京23区や横浜市、大阪市、は「6」に区分されており、UAは0.87以下、ηACが2.8以下であれば省エネ基準適合です。
地域区分 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 |
外皮平均熱貫流率:UA[W/(㎡・K)] | 0.46 | 0.56 | 0.75 | 0.87 | – | |||
冷房期の平均日射取得率:ηAC[-] | – | 3.0 | 2.8 | 2.7 | 6.7 |
非住宅における外皮性能
非住宅の外皮計算は、外皮直接の断熱性能ではなく、ペリメータゾーンの年間熱負荷係数:PAL*(パルスター)にて評価します。
ペリメータゾーンの年間熱負荷係数(PAL*)
ペリメータゾーンとは、非住宅建築物で各階の外気に接する壁の中心線から水平距離が5m以内の屋内の空間、屋根直下の階の屋内の空間及び外気に接する床の直上の屋内の空間をいいます。
PAL*は、非住宅の省エネ基準においては「誘導基準」とされ、義務基準ではありません。
ただし、PAL*を向上させることにより、一次エネルギー消費性能の向上に寄与することが可能です。
具体的な計算式は以下の通りです。
(計算式)
PAL*=(各階のペリメータゾーンの年間熱負荷(MJ/年))➗(ペリメータゾーンの床面積合計(㎡))
難しい外皮計算は専門家に相談しよう!
外皮性能の計算は、事業主から委託を受けた設計事務所が行いますが、省エネ計算や書類整備など非常に煩雑な業務となるので、一般的には申請代行会社に再委託します。
「環境・省エネルギー計算センター」では、上場企業・大手設計事務所など1,000社以上をサポートしており、累計2,600棟以上の業務実績、お客様のリピート率は90%以上を誇ります。
事前相談は無料で対応可能なので、外皮計算で分からないことがあればぜひお気軽にお問合せください。
戸建住宅の外皮計算方法
ここからは、住宅の外皮計算に特化して、戸建住宅と共同住宅それぞれの外皮計算方法について解説します。
まずは戸建て住宅ですが、計算方法は「標準計算ルート」「簡易計算ルート」「モデル住宅法」の3種類のうちから評価手法の選択が可能です。
この3種類以外にも「仕様ルート」という評価方法がありますが、設備仕様の適用範囲が狭いため実用的ではありません。
したがって、上記3つの方法から選択しますが、外皮計算を行う目的により採用すべき方法に違いがあるので、これから詳しく説明します。
標準計算ルート
標準計算ルートは、外皮面積を算定し反映することが大きな特徴で、BELS申請にも対応可能です。
評価対象住宅の部位ごとに計算した外皮面積や長さ、性能値、係数等を用いて外皮性能を求めます。
簡易計算ルートに比べ、正確な外皮性能の算出が可能です。
「外皮平均熱貫流率」と「冷房期の平均日射熱取得率」の計算は、手計算でも対応できますが、一般的には外皮計算用エクセルシートを活用します。
「屋根・天井」「外壁」「開口部」「床」「基礎」の面積や長さを求め、性能値と係数を乗じるものとイメージしてください。
簡易計算ルート
標準計算ルートと違い、外皮面積を計算しない方法で、こちらもBELS申請に対応可能です。
各部位(屋根、天井、外壁、開口部、床、基礎等)の性能値だけを求め、簡単な式に代入することで、「外皮平均熱貫流率」と「冷房期の平均日射熱取得率」を算出します。標準計算ルートよりも簡単に計算できますが、外皮性能は低く評価される傾向があります。
モデル住宅法
エクセルシートやWebプログラムを使わなくても、手計算で外皮性能と一次エネルギー消費量性能の適否が判断できる簡便な方法です。
部材のカタログ等より部位の外皮性能を転記する方法で、主に建築物省エネ法の説明義務制度のために利用されています。
簡易的な計算方法であるため、BELSや住宅トップランナー制度、住宅性能表示制度等には利用できないため注意が必要です。
共同住宅の外皮計算方法
続いて、共同住宅における計算方法は「標準計算ルート」「フロア入力法」の2種類のうちから評価手法の選択が可能です。
戸建て同様この2種類以外にも「仕様ルート」という評価方法がありますが、設備仕様の適用範囲が狭いためこちらも実用的ではありません。
標準計算ルート
最も精緻に外皮性能を測る計算方法で、共同住宅では唯一、BELSや住宅トップランナー制度、住宅性能表示制度等には利用できるものです。
計算には、外皮計算用エクセルシートを活用し、住戸の部位ごとに面積・長さ・熱伝導率等を代入し、各部位の熱貫流率により外皮性能を判定します。
フロア入力法
この入力法は、評価における煩雑さを減らすため、フロアごとの住戸部分の外周の長さ等を計算する簡易的な計算方法です。
住棟全体の基本情報である、高さ・階数・各フロアの住戸数等を元に、住棟を単純化したうえで、住棟全体の省エネ性能を評価します。
標準計算ルートより入力するデータ数が大幅に削減されており、計算にはフロア入力法専用の評価シートを活用します。
なお、フロア入力法は、BELSや住宅トップランナー制度、住宅性能表示制度等には利用できません。
各計算方法による効果の違い
大きな違いとしては、BELSや住宅トップランナー制度、住宅性能表示制度等に利用できるかどうかの違いがあります。
【戸建住宅】
制度 | 標準計算ルート | 簡易計算ルート | モデル住宅法 |
説明義務制度 | 可 | 可 | 可 |
BELS | 可 | 可 | 不可 |
住宅トップランナー制度 | 可 | 可 | 不可 |
住宅性能表示制度 | 可 | 可 | 不可 |
低炭素建築物認定制度 | 可 | 可 | 不可 |
性能向上計画認定制度 | 可 | 可 | 不可 |
【共同住宅】
制度 | 標準計算ルート | フロア入力法 |
説明義務制度 | 可 | 可 |
BELS | 可 | 不可 |
住宅トップランナー制度 | 可 | 不可 |
住宅性能表示制度 | 可 | 不可 |
低炭素建築物認定制度 | 可 | 不可 |
性能向上計画認定制度 | 可 | 不可 |
さらに、外皮性能の数値においては、以下の傾向があります。
【戸建住宅】
モデル住宅法 → 簡易計算ルート → 標準計算ルートの順にUA、ηAC共に数値が小さくなる傾向。
【共同住宅】
フロア入力法 → 標準計算ルートの順にUA、ηAC共に数値が小さくなる傾向。
特に、戸建住宅において、BELSにて多くの星を獲得したい場合は、手間はかかるものの標準計算ルートを選択するのが有効です。
外皮計算でお悩みなら、環境・省エネルギー計算センターにご相談ください!
ご説明した通り、外皮計算は非常に手間がかかる業務で、設計事務所が当該業務を行うと本来集中すべき設計などの業務に支障がでてしまいます。
多くの省エネ計算代行業務の実績を誇る当社「環境・省エネルギー計算センター」では、標準計算ルートや簡易計算ルートの計算において、対象建築物に適切な方法を提案することが可能です。
実際の業務も高品質でありながら、徹底した価格調査を行っているため価格にも自信があります。ちょっとした疑問などでも結構ですので、ぜひお気軽にご連絡ください。