2050年のカーボンニュートラル実現に向けて、建築物の省エネルギー性能の向上が求められている中、省エネ法の改正が進められています。
2025年4月からは原則としてすべての新築建築物に省エネ基準の適合が義務化されます。
この影響範囲は大きく、改正の内容を理解することは、建築業界に携わる方にとって必須事項と言えるでしょう。
本記事では、建築物省エネ法における省エネ適合性判定の基本的な内容から、改正に伴う省エネ基準の変更点、建築業界の対応策まで、わかりやすく解説していきます。
省エネ適合性判定とは?改正の背景と目的を解説
省エネ適合性判定は、建築物の省エネルギー性能を評価し、一定の基準を満たしているかを判定する制度です。
この制度は、建築物のエネルギー消費量を削減し、地球温暖化対策を推進することを目的としています。
省エネ適合性判定の定義と役割
省エネ適合性判定とは、建築物のエネルギー消費性能の向上等に関する法律(建築物省エネ法)に基づき、新築や大規模改修等の建築物に対して、省エネルギー基準への適合性を判定する制度です。
この判定を受けることで、建築物の省エネルギー性能が一定の基準を満たしていることを確認できます。
省エネ法改正の背景と目的
省エネ法の改正は、2050年のカーボンニュートラルに向けた取り組みの一環として行われました。
建築物のエネルギー消費量は、日本の温室効果ガス排出量の約1/3 を占めており、その削減が喫緊の課題となっているのです。
改正の目的は、建築物の省エネルギー性能の向上を加速し、脱炭素社会の実現に寄与することにあります。
2024年の省エネ法改正の内容と影響
2024年にも省エネ法の改正があり、省エネ基準に関する変更点がありました。
まずはその主なポイントと影響について見ていきましょう。
2024年の改正の主なポイント
2024年の改正のポイントは以下のとおりです。
- 延床面積2,000㎡以上の大規模非住宅建築物の省エネ基準の引き上げ
延床面積が2,000㎡以上の大規模なオフィスビル、商業施設、ホテルなどの省エネ基準が厳しくなりました。
用途区分 | 改正前のBEI基準値 | 改正後のBEI基準値 |
---|---|---|
工場等 | 1.0 | 0.75 |
事務所等・学校等・ホテル等・百貨店等 | 0.8 | |
病院等・百貨店等・飲食店・集会所 | 0.85 |
つまり、建物の種類によって15%~25%もエネルギー消費量を抑える必要があり、従来通りの設備や設計では基準を満たせなくなったのです。
そのため、より高効率な設備の導入や、建物の断熱性能向上など、省エネ対策がこれまで以上に重要になります。
2024年改正による影響
2024年の省エネ法改正により、延床面積が2,000㎡以上の大規模な非住宅の建築物は、一次エネルギー消費量の基準値が引き上げられました。
用途によってそれぞれ基準値が異なりますが、どちらにしても高度な省エネ技術の導入が求められるようになりました。
従来の設計手法では基準を満たせない場合もあるため、設計者は新たな技術習得や、専門家との協力体制の構築が必要になるでしょう。
これらの変化に対応するためには、社内体制の整備や人材育成に取り組む必要があります。
省エネ適合性判定への対応を専門とする部署を設けたり、外部の専門家と連携したりするなどの工夫が求められます。
また、設計や施工の現場では、省エネ基準への適合を確実にするための品質管理体制の強化も重要です。
2025年省エネ基準適合義務化とその影響
2025年4月には原則としてすべての新築建築物への省エネ基準適合義務化が予定されています。
ここでは、その内容と影響について詳しく解説します。
2025年の建築物省エネ法改正の主なポイント
2025年の改正では、以下のようなポイントが盛り込まれています。
- 原則すべての新築建築物の省エネ基準への適合義務化
- 増改築を行った場合は増改築部分が省エネ基準に適合する必要がある
- 省エネ基準適合義務化に伴う評価方法の合理化
- 小規模住宅に係る特例(4号特例)の見直し
この改正により、一部の例外を除いて、新築するほぼ全ての住宅と建築物が省エネ基準を満たすことが義務化されます。
また増改築を行った場合は、増改築部分が省エネ基準に適合しなくてはなりません。
一方で、評価方法も合理化され、手続きがスムーズになるというメリットもあります。
ただし、小規模住宅に適用されていた特例(4号特例)が見直されるため、小さな住宅でもより高い省エネ性能が必要になる可能性があります。
省エネ基準適合義務化の範囲
現行の建築物省エネ法では、中・大規模(300㎡以上)の非住宅の新築、増改築を行う建築主に対して省エネ基準への適合義務を課していますが、2025年4月以降は原則としてすべての新築住宅・非住宅が対象となります。
つまり、2025年4月以降に着工を予定している建築物は省エネ基準を満たしていないと着工ができなくなるのです。
引用:国土交通省「令和4年度改正建築物省エネ法の概要」
新築建築物の省エネ基準適合義務化による影響は?
新築建築物への省エネ基準適合義務化により、建築業界は、これまで以上に高度な省エネ技術の習得と導入が求められることになるでしょう。
設計者や施工者は、新たな基準に対応するための知識やスキルが必要となり、社内体制の強化が急務となります。
この改正は、建築業界全体に大きな影響がありますが、同時に脱炭素社会の実現に向けた建築が行われるなど大きなビジネスチャンスでもあります。
今後は業界全体で省エネ建築物の普及に取り組むことが求められるでしょう。
省エネ適合性判定の手続きと今後の基準
省エネ法の改正により、これまで対象範囲外だった建築物では手続きに変更が生じます。
ここでは、省エネ適合性判定の申請手続きと今後の基準の見通しについて見ていきましょう。
省エネ適合性判定の申請手続き
省エネ適合性判定を受けるためには、所管行政庁または民間審査機関に申請書を提出する必要があります。
申請書には、建築物の設計図書や省エネルギー計算書などを添付しなければなりません。
2025年の改正後は、申請対象となる建築物の範囲が拡大されるため、より多くの建築主や設計者が申請手続きを行うことになるでしょう。
省エネ基準の目指すべき目標
日本では2030年の目指すべき住宅・建築物の姿として、
- 新築される住宅・建築物についてはZEH・ZEB水準の省エネ性能が確保されている。
- 新築戸建住宅の6割において太陽光発電設備が導入されていること
上記2点を掲げています。
また、カーボンニュートラルの実現を目指す2050年の目指すべき住宅・建築物の姿としては、
「ストック平均でZEH・ZEB水準の省エネ性能が確保されているとともに、その導入が合理的な住宅・建築物における太陽光発電設備等の再生可能エネルギーの導入が一般的となること」
を掲げて、省エネ対策の強化を進めています。
建築業界の動向と省エネ適合義務化への対応策
2025年の省エネ法改正は、建築業界に大きな影響を与えます。
ここでは、建築業界の動向と、省エネ適合義務化への対応策について考えてみましょう。
建築業界の動向と課題
省エネ法の改正により、建築業界では省エネ技術の導入や、高度な省エネ設計が求められるようになりました。
しかし、中小規模の事業者にとっては、技術的・経済的な課題も多いでしょう。
また、省エネ基準適合義務化に伴い、設計や施工の現場での負担増加も予想されます。
省エネ適合義務化への対応策
建築業界が省エネ法の改正に円滑に対応するためには、以下のような取り組みが重要でしょう。
- 省エネ技術や設計手法の習得
- 社内体制の整備と人材育成
- 関連業界とのネットワーク構築
- 行政機関からの情報収集と活用
これらの対応策を着実に実行することで、省エネ法の改正を建築業界の発展につなげていくことが可能となります。
省エネ適合性判定なら実績豊富な「環境・省エネルギー計算センター」に相談!
建築物省エネ法の改正により、建築物の省エネルギー性能の向上がますます重要になってきました。
しかし、省エネ計算や適合性判定の申請は、専門的な知識と経験が必要とされます。
省エネ計算や省エネ適合性判定でお悩みの方は、ぜひ「環境・省エネルギー計算センター」にご相談ください。
※専門的な内容となりますので、個人の方は設計事務所や施工会社を通してご相談された方がスムーズです。