2022年の建築物省エネ法の改正により、2025年から住宅・非住宅ともに新築時の省エネ基準適合が義務化されます。
それに伴い、増改築時の省エネ基準への適合も義務化されます。
適合義務の住宅・非住宅が増えたり、省エネ基準が厳しくなったりと変化が大きいため、建築事業者は改正内容の把握が必須です。
この記事では、増改築が省エネ基準適合の義務化で変わるポイントや一次エネルギー消費量などの基準について解説します。
手続きフローも記載するので、2025年以降に増改築する際の参考にしてください。
建築物省エネ法改正で増改築の省エネ基準見直しへ
2050年のカーボンニュートラルの実現に向けて、建築物省エネ法が改正され、省エネ基準の強化・推進が加速しています。
カーボンニュートラルとは、二酸化炭素などの温室効果ガスの排出量から森林などによる吸収量を差し引いて、温室効果ガスの排出を全体で実質ゼロにするという意味です。
建築物分野は国内のエネルギー消費の約3割を占めているため、今よりも具体的で積極的な省エネ対策が求められているのが実情です。
そのため法改正による建築物の省エネ基準の強化が行われ、すべての新築する建築物で省エネ基準適合が義務化される運びとなります。
当然、増築や改築も例外ではなく、建築業界は既存建築の省エネ基準の適合化をすすめることで、さらなる温室効果ガスの排出量削減が求められます。
2025年省エネ基準適合義務化が増改築に与える5つ影響
省エネ適合基準義務化が住宅・非住宅の増改築に与える影響は、下記5点です。
・適合義務は増改築する部分のみ
・基準適合義務の対象の拡大
・大規模な非住宅建築物の省エネ基準引き上げ
・建築士の説明努力義務
・適合判定手続き・審査の合理化
ひとつずつ詳しく解説します。
適合義務は増改築する部分のみ
現行で増改築する場合、増改築した箇所だけでなく既存部分を含めた建築物全体が省エネ適判の対象です。
しかし改正後の適合義務は、増改築を行う部分のみとなります。
引用:国土交通省「令和4年度改正建築物省エネ法の概要」
たとえば既存住宅に部屋をひとつ増築する場合は、その増築した箇所のみ基準適合が求められます。
建物すべてに手を加える必要がなくなったため、現行よりも多少緩和されたと言えるでしょう。
基準適合義務の対象の拡大
現行の増改築では、中規模以上(300㎡以上)の非住宅のみ適合対象です。
一般的な住宅や小規模の非住宅は、建築士から建築主への評価・説明があれば届出も不要で着工できます。
改正後は、増築部分の規模が10㎡以上の住居・非住居すべて省エネ適判対象です。
引用:国土交通省「令和4年度改正建築物省エネ法の概要」
これにより増改築業務をおこなう建築事業者のほとんどが、省エネ適判に深く関わるようになるでしょう。
大規模な非住宅建築物の省エネ基準引き上げ
延床面積2,000㎡以上の大規模非住宅の省エネ基準が、用途別に定められるようになり、求められる数値が15~25%程度強化されます。
引用:国土交通省「大規模非住宅建築物の省エネ基準が変わります」
これにより、用途によって一次エネルギー消費量基準の計算式や省エネ技術を変える手間がかかり、水準の強化により今までの技術の使いまわしもできなくなる恐れがあります。
建築士の説明努力義務
改正により、建築士は専門家として建築主に情報提供を行い、建築主の省エネ意識向上と建築物の省エネ性能向上を促す義務が発生します。
引用:国土交通省「令和4年度改正建築物省エネ法の概要」
建築主に情報提供すべき内容の例は、下記のとおりです。
・国の温室効果ガス排出削減量の目標
・建築主の省エネ基準に適合させる努力義務
・省エネ性能を採用することによる快適性向上
・省エネ性能を高めることによる光熱費削減効果
・ヒートショック等室内の寒暖差が健康へ与える影響
・省エネ住宅への支援措置
・災害時等の継続利用可能性 など
温室効果ガス排出量削減を促進するには、建築士が建築主に省エネについての意義やメリットを説き、建築主が納得の上で省エネ住宅を選択していくのが必要不可欠と言えます。
適合判定手続き・審査の合理化
省エネ基準適合が義務化されると、必然的に適合判定対象が増加します。
手間や負担を減らすために、仕様基準の建築物や、都市計画区域・準都市計画区域の外の建築物(平屋かつ200㎡以下)など審査が簡単な建築物は省エネ適判が省略・合理化されます。
増改築で適合が求められる省エネ基準
建築物省エネ法改正により、増改築で適合が求められる省エネ水準は、住宅と非住宅で異なります。
それぞれの基準について、詳しく解説します。
住宅の場合
住宅を増改築する場合、仕様ルートと計算ルートで外皮基準や一次エネルギー基準が異なります。
種類 | 仕様ルート | 計算ルート |
---|---|---|
外皮基準 | 増築部分の外皮各部位が仕様基準や誘導仕様基準に適合 | なし |
一次エネルギー | 建築部分の各設備が仕様基準や誘導仕様基準に適合 | 増改築後のBEIが1.0を超えない |
外皮基準よりも一次エネルギーの消費量を重要視しているように感じられますが、BEIを1.0以下にするためには窓や壁などの外皮の性能も関係してきます。
非住宅の場合
非住宅の増改築は計算ルートのみで、一次エネルギー基準が定められています。
増築した部分で、下記の計算式が成り立つのが条件です。
【設計一次エネルギー消費量≦基準一次エネルギー消費量】
これにより、現行で定められている「既存建築物の増改築時における基準値」と「既存部分のBEIデフォルト値」の取扱いが廃止されます。
なお、飲食店とホテルが複合しているなど建築物に複数の用途があり、それぞれ省エネ基準値が異なる非建築物の基準への適否は、非住宅部分の設計一次エネルギー少量(用途ごとの合計)が、非住宅部分の基準一次エネルギー消費量(用途ごとの合計)を超えないのが原則です。
引用:国土交通省「大規模非住宅建築物に係る省エネ基準の引き上げ及び分譲マンションに係る住宅トップランナー基準の設定について」
空調設備が設置された倉庫・工場も対象
倉庫や工場などの非住宅は、居室用途や空調設備の有無で省エネ適判の対象か判断します。
原則的に省エネ適判対象外は、物品を保管または設置する建築物で、物品の性質上室内の温度や湿度の調整が不要のものです。
省エネ適判対象外の事例
・自動車倉庫
・駐輪場
・常温倉庫
・変電所
・堆肥舎
・無人工場(常温) など
人が作業をしたり常温保管ができない物品を取り扱ったりする場合は、省エネ適判の対象になります。
省エネ適合性判定の手続きフロー
省エネ適判の手続きフローは、新築と増改築で大きな差はありません。
省エネ適判が必要な場合は、下記の図のとおりです。
引用:国語交通省「適合性判定の手続き・審査の合理化について」
建築確認申請と省エネ性能確保計画の提出を同時に済ませると、着工までの手続きがスムーズになります。
仕様基準を用いるなど、審査が比較的容易で省エネ適判が不要な建築物のフローは、下記の図のとおりです。
引用:国土交通省「適合性判定の手続き・審査の合理化について」
省エネ適判が不要な分、着工までの手続きや時間が削減されるのが大きなメリットです。
すべての物件で省エネ適判の計算を行うのは、審査側にも申請側にも大きな負担がかかります。
業務の効率化や負担軽減を目指すため、仕様基準を上手く活用するのもひとつの手法といえます。
減税の申請に必須!増改築工事等証明書の取得方法
住宅リフォーム減税や、住宅ローン減税を取得するには「増改築等工事証明書」が必要です。
増改築等工事証明書とは、建築確認申請が不要の小規模工事で発行できる証明書で、増改築時に下記の申請をする場合に提出を求められます。
・所得控除
・固定資産税の減額
・贈与税の非課税措置
・住宅ローン減税 など
また証明書の発行が可能なのは、下記の事業者のみです。
・建築士事務所登録をしている事務所に属する建築士
・指定確認検査機関
・登録住宅性能評価機関
・住宅瑕疵担保責任保険法人
増改築業務をおこなっている事業者でも、上記の資格がない場合は証明書が発行できません。
増改築等工事証明書の様式は、国土交通省の「住宅リフォームの減税制度で使用する証明書・告示・動画について」から取得できます。
増改築の省エネ適判でよくある質問4選
改正による増改築時の省エネ基準適合義務化で、よくある質問について4つ紹介します。
Q1.模様替え等の改修は適合対象か
A.模様替えや修繕は、省エネ適判対象外です。
雨漏りを修繕したり、壁紙を張り替えた場合などは省エネ適判を気にする必要がありません。
10㎡以上の増改築を実施する場合に、省エネ適判を実施しましょう。
Q2.非住宅も住宅と同様に増改築を行う部分のみ適合対象か
A.非住宅も住宅と同様に、増改築を行う部分のみ適合対象です。
現行では既存部分も含めて計算する必要がありましたが、増改築を行う部分のみに変更されます。
Q3.なぜ現行の制度よりも基準が緩和されたのか
A.適合対象が増改築を行う部分のみに省略されるなど、省エネ性能の向上を目的としているにもかかわらず基準が緩和されたのは、増改築の滞りを避けるためです。
条件が厳しすぎると増改築へのハードルが高くなり、2050年のカーボンニュートラル実現にブレーキがかかると判断されました。
省エネ基準は強化したものの、対象を限定することでバランスをとっています。
Q4.減築と増築を同時に行った場合の適合判定について
A.減築と増築を同時に行った場合、増築部分が10㎡以上なら適合判定の対象です。
減築部分と増築部分で相殺できないため、注意しましょう。
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日々の業務に忙しい建築士の方々が当該業務を行っていると、最も重要な設計業務に支障が出てしまう恐れがあります。
また、万が一省エネ基準に適合しないと、確認済証や検査済証の交付が受けられず、着工や完成が延滞することもあるため注意が必要です。
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