省エネ計算における仕様基準は、建築物の省エネ性能が基準に適合するかを簡易に判定できる仕組みです。
省エネ計算なしで省エネ基準への適合を確認できるため、最近注目されて始めています。
今回はその仕様基準について、特徴やメリット、注意点を解説します。
仕様基準を詳しく知り、適切に活用するため、ぜひ最後までご覧ください。
省エネ計算の「仕様基準」とは何か
はじめに「省エネ基準」と「仕様基準」の違いを、簡単にまとめます。言葉は似ているものの、指す対象はまったく異なるこの2つの言葉。
あらためて、違いを確認しておきましょう。
省エネ基準とは
省エネ基準は、「建築物エネルギー消費性能基準等を定める省令(通称、建築物省エネ法)」が定める、建築物のエネルギー消費性能を測る基準です。
省エネ基準は、2つの性能で構成されます。
種類 | 内容 |
---|---|
外皮性能 | 屋根・壁・窓など、外皮部分の断熱性能を示す基準 ※住宅が対象 |
一次エネルギー性能 | 設備機器の省エネ性能を示す基準 |
一次エネルギー性能は「BEI」と呼ばれ、「設計一次エネルギー消費量」を「基準一次エネルギー消費量」で割った結果です。BEI≦1.0以下で、省エネ基準に適合します。
引用:省エネ基準の概要|国土交通省
一般的に「省エネ計算」というときは、この計算を指します。
非住宅建築物の省エネ計算方法は、以下の3つです。
・標準入力法(もっとも精緻)
・モデル建物法
・小規模版モデル建物法
引用:省エネ性能に係る基準と計算方法|改正建築物省エネ法オンライン講座(テキスト)
ちなみに、戸建て住宅の省エネ計算方法は「標準ルート・簡易計算ルート・モデル住宅法」の3つです。
仕様基準とは
仕様基準とは、省エネ計算なしで省エネ基準への適合を確認できる方法です。
「外皮」「一次エネルギー消費量」の既定値と、チェックリストへの入力値を照合し、適合度を判定します。
省エネ計算が不要なため、簡便な手法といえます。
仕様基準のチェックリストをダウンロードできるサイトや、具体的な使い方は後述します。
省エネ計算の仕様基準が注目される背景
省エネ基準の適合判定で、仕様基準が注目される背景を見てみましょう。
2025年に控える、すべての新築建築物の省エネ基準適合義務が、主な理由のようです。
1.全新築住宅に省エネ基準への適合が義務付けられることになった
建築物省エネ法が改正され、2025年4月以降着工のすべての新築建築物は、省エネ基準への適合が義務付けられました。
これまで届出義務や説明義務に留まっていた、小規模(300m2未満)の非住宅や一般の戸建て住宅も、省エネ基準に適合させなければなりません。
引用:建築物省エネ法改正に関するリーフレット|国土交通省
省エネ基準適合義務の改正は、地球温暖化対策が主目的です。
省エネ基準を満たす建築物を増やし、建築物が排出する温室効果ガス・建築物の消費エネルギーの削減を目指しています。
2.省エネ基準適合の義務化により、すべての新築建築物で省エネ計算が必要になる
省エネ基準適合の義務化は、全建築物で省エネ計算が必要になることを意味します。
ところが、省エネ計算は、緻密で複雑な工程が必要です。
全建築物の省エネ判定を計算によって行うのは、建築設計現場に膨大な負担をもたらす恐れが出てきました。
そこで、より簡便に判定できる仕様基準が見直しされた、というわけです。
3.省エネ計算の負担を軽減するため、仕様基準が改正された
省エネ計算の負担軽減、また省エネ建築物の円滑な着工を目指し、2022年11月に仕様基準が見直しされました。
見直しにより、仕様基準は現状に即した使いやすい形になりました。
スピーディーな省エネ基準適合判定が可能になり、建築設計現場の負担軽減が期待されています。
省エネ計算の仕様基準・改正の要点3つ
2022年の仕様基準改正で押さえておきたいポイントを、詳しく解説します。
構造・建て方別の基準設定
改正前の仕様基準は「共同住宅=鉄筋コンクリート(RC)造」「戸建て住宅=木造・鉄骨造」を想定していました。
ただ、建築技術の発展により、木造の共同住宅やRC造の戸建住宅も登場しています。
そのため、最新の建築方法に対応した基準が新設されました。RC造の共同住宅では、水準も見直されています。
建築物に合った、より詳細な評価が可能になっています。
引用:共同住宅等の外皮性能の評価単位の見直し 及び 住宅の誘導基準の水準の仕様基準(誘導仕様基準)の新設について|国土交通省
開口部比率の廃止
改正前の仕様基準は、開口部比率(外皮面積に占める開口部面積の比熱)を計算しなければなりませんでした。
熱貫流率と日射遮蔽対策の基準を確認するためです。
見直しの折、開口部比率の区分が廃止されています。
熱貫流率の基準値の確認だけで済むようになり、判定基準も簡素化されました。
引用:同上
誘導仕様基準の新設
誘導仕様基準と呼ばれる新しい水準も設定されました。
これは、省エネ性能の高いZEH基準の住宅を増やすことが目的です。
省エネ計算をしなくても、ZEH水準への適合を判定できます。
ただし、誘導仕様基準の新設は住宅のみが対象です。非住宅の建築物には、誘導仕様基準の新設はありません。
引用:同上
省エネ計算の仕様基準チェックリストの使い方
ここからは、仕様基準チェックリストの使い方を具体的に解説します。
国土交通省のホームページで仕様基準を確認
まず、仕様基準のガイドブックを確認しましょう。
国土交通省のホームページに、地域区分ごとのガイドブックが紹介されています。
省エネ基準への適合を判定する「省エネ基準編」と、より高性能な住宅を対象とした「誘導基準編」に分かれているため、注意してください。
引用:資料ライブラリー|国土交通省
チェックリストに従って数値を入力
該当のガイドブックを開くと、解説の後にチェックリストが続きます。
チェックリストに従って断熱材・開口部・設備機器の数値を記入してください。最後に、基準への適合を判定します。
引用:木造戸建住宅の仕様基準ガイドブック(4~7地域版)|国土交通省
PDFに、直接数値を入力できるチェックリストもあります。
省エネ基準適否チェックリスト|令和5年度改正建築物省エネ法情報サイト
省エネ計算で仕様基準を利用するメリット
省エネ計算において、仕様基準を使うメリットを3つ紹介します。
細かな計算をせずに基準への適合を判定できる
仕様基準はチェックリストに記入するだけで、省エネ基準・誘導基準への適合が判定できます。
省エネ計算では必須の部位・設備ごとの細かな計算もいりません。
チェックリストを使って、施主への性能説明も可能です。
建築確認申請時の省エネ適合性判定が要らなくなる
仕様基準を利用すると、省エネ適合性判定が不要になります。
これは、省エネ適合義務が全建築物に拡大された後も、変わりません。
当然、省エネ適合性判定の申請費用も不要です。
また、着工後に床面積・開口部面積の変更が発生した場合も、基準値内なら「軽微な変更」にできる点もメリットでしょう。
さまざまな制度や申請に利用できる
仕様基準は、省エネ適合判定のほかにも、以下のようなさまざまな用途に活用できます。
・住宅ローン減税の省エネ基準適合住宅の基準
・フラット35、BELS、住宅性能評価などの申請図書の一部
・長期優良住宅適合性審査の申請図書の一部
・建築主への説明資料 など
省エネ計算の仕様基準チェックリストの注意点3つ
仕様基準を使う前に、知っておきたい注意点が3つあります。それぞれを、詳しく見てみましょう。
「設備機器」に記載がない住宅設備もある
仕様基準のチェックリストには、基準に適合する設備機器の一覧も掲載されています。
引用:木造戸建住宅の仕様基準ガイドブック(4~7地域版)|国土交通省
ただ、メーカーが用意するすべての設備機器を網羅してはいません。
リストに掲載がない設備は、チェックリストでの省エネ基準・誘導基準への適否が確認できない点に注意が必要です。
仕様一覧にない設備を設置する場合、エネルギー消費性能計算プログラムで基準への適否を確認します。
断熱材と開口部の数値
チェックリストの「断熱材」「開口部」に入力する数値にも、注意してください。
まず、断熱材の欄には、熱抵抗値(R値)を記入します。
断熱部位および断熱工法によって、基準値が異なります。
複数の工法を使う場合は、工法ごとに基準値を満たさなければなりません。また、複数種類の断熱材を使う場合は、R値が低いほうを記入します。
開口部の欄には、熱貫流率(U値)を記入してください。複数の仕様を採用する場合、もっともU値が低い数値を記入します。ただし、窓の日射取得率(η値)は、最大値を記入します。
性能値が出ない
仕様基準は、精緻な計算をして省エネ基準への適合を判定するものではない点にも、注意しましょう。具体的な性能値が必要な制度や申請への利用には、制約がかかります。
省エネ計算のこれから
現在、建築物の省エネ基準適合判定には、いくつもの計算方法があります。
ただ、判定の簡素化が急務となる現状もあり、今後は住宅の省エネ計算は「標準計算」と「仕様基準」の2つに絞られていくでしょう。
現状、住宅であれば木造戸建て、共同住宅、RC造戸建て、共同住宅に使うことができます。
しかし、場合によっては使えない箇所がある可能性がありますので注意が必要です。
また、仕様基準を満たす設備はスペックが高いため、導入するための費用が多くかかる可能性があります。
建物の計画や規模、必要性、資産価値などを総合的に評価し、最適な判定方法を選択してください。
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省エネ計算における仕様基準は、建築物の省エネ性能が基準に適合するかを簡易に判定できる仕組みです。
シンプルでスピーディーに判定できる反面、対象の設備を導入するには大きなコストがかかりやすいという難点があります。
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