建築物省エネ法が大きく改正され、2025年4月に全面施行されます。
「どのような改正があるのか」「違反した場合の罰則はあるのか」など、心配に感じる建築士の方もいるのではないでしょうか。
今回は、改正される建築物省エネ法の概要と、違反になるポイント、罰則の内容、対処法を解説します。
建築物省エネ法は、正しく理解しておけば、不要に心配する必要はない法律です。
最後まで読み、法令を遵守して業務を進めるヒントに活用してください。
建築物省エネ法の現状
改正された建築物省エネ法の全面施行を前に、この法律が定める要点をあらためて振り返っておきましょう。
2025年4月に改正建築物省エネ法が全面施行
地球温暖化対策として、日本は2050年までにカーボンニュートラルの実現を目指しています。
建築業界では、建築物の省エネ化を進めるべく、建築物省エネ法が改正され2025年4月に施行されます。
建築物省エネ法 改正の要点は7つ
建築物省エネ法の改正ポイントは、以下の7つです。
- 省エネ基準適合義務の対象拡大
- 建築主の性能向上努力義務
- 建築士の説明努力義務
- 適合性判定の手続き・審査
- 住宅トップランナー制度の拡充
- エネルギー消費性能の表示制度
- 建築物再生可能エネルギー利用促進区域
以降ではそれぞれの内容を、重要で罰則がかかわる点に絞り解説します。
1. 省エネ基準適合義務の対象拡大
これまで届出義務・説明義務だった建築物も含め、すべての新築建築物への省エネ基準適合が義務付けられました。
参照:令和4年度改正建築物省エネ法の概要|国土交通省(以下同)
増改築の場合は、増改築を施す部分のみ、基準への適合が求められます。
2. 建築主の性能向上努力義務
改正建築物省エネ法は、建築主に対して、新築(増改築)する建築物の性能を、一層向上させる努力を義務付けています。
省エネ基準への適合はもちろん、建築物のさらなるエネルギー消費性能の向上に努めてください、という意味です。
3. 建築士の説明努力義務
建築主が性能向上に同意するには、性能についての説明が必要です。
昨今は基準が細分化・複雑化しており、一般の人にとって理解が難しくなっています。
改正建築物省エネ法は、建築士の説明を義務化しました。
説明が必要な内容は建築物のエネルギー消費性能について、またエネルギー消費性能の向上方法などです。
4. 適合性判定の手続き・審査
国内で年間に新築着工される建築物の数は、40万件を超えます。(※)
適合性判定の対象外となる新3号や仕様基準が適用される建築物を除いても、30万近くの建築物に適合性判定が必要となります。
これらすべてに対する適合性判定は、申請側・審査側双方にとって過剰な負担となります。
改正建築物省エネ法では、適合性判定の手続き簡素化も定められています。
※ 参照:建築着工統計調査(2023年・年次)|政府統計の総合窓口 e-Stat
5. その他
その他、改正建築物省エネ法では、以下の3つの変更も予定されています。
住宅トップランナー制度の拡充
これまで分譲型住宅のみが対象だった住宅トップランナー制度が、分譲マンションにも拡大されます。
1,000戸以上の分譲マンションを供給する事業者が対象です。
新しいエネルギー消費性能の表示制度の開始
消費者や事業者に向けた、エネルギー消費性能の表示制度が始まります。
この制度は消費者や事業者が建築物の省エネ性能を直感的に把握できること、また性能の高低が建築物購入・賃借の比較材料になることを目指しています。
建築事業者には、建築物の省エネ性能を、規定に沿って表示する業務が発生します。
建築物再生可能エネルギー利用促進区域
改正建築物省エネ法は、建築物再生可能エネルギー利用促進区域を新設しました。
再生可能エネルギー設備の設置促進が必要なエリアについて、市町村が促進計画を作成できるとしたものです。
この制度を利用した場合、建築士は再生可能エネルギーの導入効果を説明する義務が生じます。
建築物省エネ法が定める実際の業務3種類
現在、建築物省エネ法によって、建築士にどのような業務が生じているのでしょうか。適合義務・説明義務・届出義務に分けて解説します。
適合義務に関する業務
省エネ基準への適合義務がある建築物を手掛ける場合、以下の3つの手続きが必要です。
- 省エネ適合性判定
- 建築確認
- 完了検査
説明義務に関する業務
説明義務のある建築物の施工では、行政手続きは不要です。
建築士は建築主に対し、書面で省エネ基準への適否等を説明する必要があります。
また、説明に使う書面は建築士事務所の保存図書として、15年間の保管が義務付けられています。
説明を担当する建築士は、設計の委託を受け、実際に設計した建築士でなければなりません。
届出義務に関する業務
届出義務のある建築物については、所管行政庁へ建築物の着工21日前までに届け出ます。
ただし、民間審査機関(住宅性能表示、BELSなど)の審査結果を添えれば、着工の3日前まで届出が猶予されます。
建築物省エネ法に違反した場合の罰則
意図せず、建築物省エネ法に違反してしまうケースもあるかもしれません。
建築物省エネ法に違反した場合、どのような罰則が課されるか解説します。
建築物エネルギー消費性能基準に適合していない場合
適合義務となっている建築物が基準に不適合と判断されると、完了検査が下りません。
当然、着工も使用もできないことになります。
さらに、違反した設計事務所には、所管の行政庁から違反是正の命令・罰則が届きます。
説明義務を果たしていない場合
説明義務のある建築物の建築主に対し、省エネに関する説明を怠ったことへの罰則はありません。
ただし、説明しないことを含め、以下のような事例は法令違反とみなされるおそれがあります。
・説明要否の意思確認で、恣意的に説明しないよう誘導する
・建築士以外が説明を実施する
・書面を交付するのみで、説明を行わない など
また、説明に使用した書面を所定期間(15年)保存していない場合、建築士法に則った処分対象とし、建築事務所が立ち入り検査を受ける場合もあります。
届出義務を果たしていない場合
現行の建築物省エネ法では、届出義務を怠った場合は、是正の指示や命令の対象となります。
この指示を無視すると、100万円以下の罰金に処されます。
建築物省エネ法で虚偽の報告をしたらどうなるか
「省エネ基準に適合しているよう偽装する」など、虚偽の内容で申請を出した場合、50万円以下の罰金が課される可能性があります。
また、基準適合認定表示に認定されていないにもかかわらず、虚偽あるいは紛らわしい表示をした場合は、30万円以下の罰金に処せられます。
建築物省エネ法に違反しないためのポイント
建築物省エネ法は、そもそも違反しないよう業務を進めることが重要です。
この章では建築物省エネ法に違反しないためのポイントを、4つの観点から解説します。
最新の建築物省エネ法を正しくキャッチアップする
建築物省エネ法の改正は、国土交通省や資源エネルギー庁が、さまざまな手段で周知に努めています。
まずは建築物省エネ法と、改正の内容を正しく理解することから始めましょう。
以下は、設計士がまずチェックしておきたい公的サイトです。
省エネ基準への適合審査の流れを理解する
省エネ基準への適合性判定は、必要な場合と不必要な場合があります。それぞれ必要な業務の流れが変わるため、手順を把握してください。
省エネ性能の計算をせずに、省エネ基準への適合を確認できる「仕様基準」の活用は、省エネ適合性判定が不要で、審査の流れが簡略化されるメリットがあります。
参照:【建築物省エネ法第11・12条】 適合性判定の手続き・審査の合理化について|国土交通省
省エネ基準に適合させるコツを把握する
省エネ基準への適合度を計算する「省エネ計算」は、計算方法によって結果が変動します。
また、わずかな工夫で建築物の省エネ性能は大きく変わります。
省エネ性能の高い設備を採用する、熱貫流率や日射熱取得率の数値入力を検討する、開口部を小さくするなどは、知っておいて損はないテクニックです。
省エネ計算ではプロのサポートを検討する
手間のかかる省エネ計算を外注する、という手段もあります。
省エネ計算を専門家に依頼することで、正確な計算結果を迅速に得られます。
また、これまで省エネ計算に割いていたリソースを、設計に集中投下できるようにもなるでしょう。
業務効率が改善し、建築主の予算内での省エネ性能向上や、説明に多くの時間を割けるようになるかもしれません。
環境・省エネルギー計算センター では、年間700棟の省エネ計算をサポートしています。
建築物省エネ法への違反に気づいたら
建築物省エネ法は、理解に努め、違反しないよう心がけて設計業務を進めることが大切です。
それでも、違反してしまった場合は、すみやかに所管行政庁に連絡し、指示に従ってください。
放置すると罰金になるケースもあり、会社の信用にも影響します。
まとめ
2024年4月以降の建築物省エネ法のポイントは、すべての新築建築物の省エネ基準への適合義務化です。
これに伴い、これまであった届出義務は廃止されます。
違反した場合は行政からの指示命令があり、罰金が課される可能性もあります。
会社の信用問題にもつながるため、違反しないよう法令の理解と遵守に努めましょう。
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