建築物省エネ法は、省エネ性能の高い建築物を普及させるため、さまざまな取り組みを事業者に課しています。
省エネ性能に関する説明義務もその1つです。
しかし、「具体的にどのような内容を説明すべきか」と戸惑う人もいるかもしれません。
今回のコラムは、省エネに関する説明義務に注目しました。目的や説明内容、また建築士が心得るべきポイントなどを解説します。
2025年4月に控える建築物省エネ法の改正にも対応しています。
ぜひ、最後までチェックしてください。
建築物の「省エネ説明義務」とは
建築物省エネ法は、建築士に「建築主に省エネに関する説明を実施する」よう求めています。省エネの説明義務とは何か、改めて確認します。
省エネ説明義務制度の概要
建築物の省エネ性能に関する説明義務は、2021年4月から始まりました。建築物の省エネ基準適合に関して、建築士が建築主に書面を交付しつつ説明しなければならない、とする制度です。対象となる建築物は、300m2未満の小規模住宅・非住宅建築物です。
2025年4月から、すべての新築建築物に省エネ基準への適合が義務化されます。これまで説明義務だった建築物も、省エネ基準への適合が必要になります。改正に伴う変更事項は、次の章で詳しく解説します。
省エネ説明義務制度の目的
建築物の省エネ性能に関する説明義務は、省エネ性能の高い建築物の普及を目的として始まりました。
高い省エネ性能を持つ建築物は、温室効果ガスの排出を減少させ、光熱費等のランニングコストを節約できるといったメリットがあります。しかし、建築コストがかさむ問題があり、建築主が諸手を挙げて歓迎する状況にはありませんでした。
そこで始まったのが、建築物の省エネ性能に関する説明の義務化です。建築の専門家である建築士が、正しい情報を丁寧な説明を通じて提供し、建築主の省エネに関する理解を深め、省エネ性能の高い建築物の設計に合意を得たい、との目的があります。
省エネ説明義務が適用されない建築物
省エネに関する説明の義務は、床面積が300m2未満かつ、説明義務制度が施行された2021年4月1日以降に設計する建築物が対象です。
説明義務の有無を判断する床面積には、建築基準法が定める高い開放性を有する部分は含まれません。
また、省エネ説明義務が適用されない建築物もあります。
以下を確認してください。
<省エネ説明義務が適用されない建築物>
- 空調設備が不要(畜舎、自動車倉庫 など)
- 文化財に指定されている建築物など
- 仮設建築物
- 10m2以下の建築物の新築
- 300m2以上/10m2以下の増改築
2025年4月の建築物省エネ法改正と、省エネ説明義務
2025年4月、建築物省エネ法の大きな改正が控えています。
今回の改正は、省エネに関する説明義務にも影響を与えます。改正の要点と説明義務のこれからを解説します。
建築物省エネ法改正の要点
2025年4月に改正施行される建築物省エネ法は、原則的にすべての新築建築物に「省エネ基準への適合を義務化する」点が、最大の改正ポイントです。
これまで説明義務や届出義務(※)だった建築物も含め、すべての新築建築物が省エネ基準に適合する性能を備えなければなりません。
※ 届出義務:300m2以上の住宅新築時、所管行政庁へ省エネ計画を届け出なければならない制度。
また、2025年4月の改正では、「適合性判定の手続き・審査の簡素化」「住宅トップランナー制度の拡充」なども予定されています。
詳しくは、国土交通省「令和4年度改正建築物省エネ法の概要」のページをご覧ください。
「説明義務」は完全にはなくならない
建築物省エネ法の改正で、省エネ性能に関する説明は、「義務」ではなくなります。
しかし、説明が不要になるわけではありません。むしろ義務を果たすために、これまで以上に丁寧な説明が必要になるでしょう。
実際、「建築主の性能向上努力義務」「建築士の説明努力義務」という、2つの努力義務が新たに課されます。
建築主の性能向上努力義務とは
※令和4年度改正建築物省エネ法の概要|国土交通省
まず、建築主には、建築(新築・増改築)しようとする建築物の省エネ性能を向上させる努力義務が課されます。建築物の省エネ基準への適合は義務であり、省エネ基準を上回る省エネ性能の確保が望まれる、という意味です。
建築士の説明努力義務とは
※令和4年度改正建築物省エネ法の概要|国土交通省
建築主が省エネ性能がより高い建築物を建てるには、建築のプロである建築士からの正しい情報が欠かせません。建築士には、省エネ性能が一層高い建築物の普及に向けて、建築物の省エネ性能に関して正しく説明する努力義務が課されます。
建築士が心得ておきたいこと
購入・賃貸を問わず、住宅市場では、多くの人が建築物の省エネ性能に関心を寄せています。一方、省エネ性能は難解な用語や専門知識が必要な分野もあり、一般の人には理解が難しい現実も見られます。
実際、「住宅の省エネ性能には6割以上の人が関心を持っているが、省エネ基準適合義務化の認知率は3割程度」との結果を示すアンケート調査も見られます。
※引用先:省エネ住宅に関するアンケート調査
建築士は、「省エネ性能の理解は一般の人には難しい」との前提に立ち、建築主の心理に配慮しつつ、平易かつ丁寧な説明を心がける必要があるでしょう。また、省エネ基準を満たす建築物を設計するために、省エネ性能に関して合意形成しなければならない、という強いコミットも大切です。
建築士が省エネに関して説明しなければならない内容
建築士が建築主に説明すべき内容は、現行の「説明義務」が参考になります。
建築士が建築主に説明した方が良い3つの内容を解説します。
1. 省エネ基準
まず、適合が義務化された「省エネ基準」とは何か、から説明を始めるべきでしょう。建築主の中には、省エネ基準という用語を初めて耳にした、という人もいるはずです。一般の人も容易に理解できる、分かりやすい解説を心がけてください。
建築物の省エネ基準は、設計に深く関わり、かつ建築主も関心を抱きやすいポイントです。断熱材や設備の選び方で、建築コストも変動します。UA値とは何か、また地域のUA値、ηAC値の根拠、建築物全体の省エネ性能の計算方法なども確認し、正しく分かりやすく解説する準備を進めます。
2. 省エネ基準への適合を判断する2つの方法
建築物が省エネ基準に適合しているかを判断する方法は、「性能基準」「仕様基準」の2つがあります。
・性能基準:外皮性能や一次エネルギー消費量等から省エネ性能を判断する基準
・仕様基準:建築物の部分ごとの性能と一時消費エネルギー量から、省エネ性能を判断する方法
建築主に対し、性能基準・仕様基準を事細かに説明する必要はありません。どの程度までの説明が必要かは、建築物の用途や規模、建築主の個性に合わせて判断してください。ただし、省エネ基準に適合した建築物を設計する合意を得るために、必要な情報は正しく、漏れなく提供します。
3. 省エネ基準への適合に重要な設計項目
省エネ基準を満たすために必要な設計項目も、建築主へ説明しましょう。建築物を省エネ基準に適合させるためには、設計上の制約が発生する場合があるためです。設計後に建築物が省エネ基準に不適合だと判明し、設計の再検討が必要になる場合もあります。
省エネ計算には、いくつもの手法があります。ある計算方法では不適合だが、別の計算方法では適合する可能性もあります。また、熱貫流率に有利な性能値を採用し、計算結果を適合させる、冷暖房設備や照明を高エネルギー効率のものに変更するといった工夫で、省エネ基準に適合させることも可能です。
省エネ基準適合判定(適判)は、建築確認手続きとともに実施される
新築建築物が省エネ基準に適合しているかの判断(省エネ基準適合判定、以下「省エネ適判」)の流れを解説します。
省エネ適判の流れ
2025年4月以降、省エネ適判は建築確認手続きの中で実施されるようになります。建築主が所轄行政庁あるいは登録済みの省エネ判定機関に省エネ性能確保計画を提出し、適判を受けます。
省エネ基準に適合しているとの判定が出ないと、確認済証と検査済証が発行されません。つまり、着工できないということです。新築建築物の計画には、今まで以上に緻密かつ確実なスケジュールの立案と、迅速な省エネ計算が必要になります。
省エネ計算は外注がおすすめ
建築物省エネ法の改正施行は、設計担当者の業務量を増やし、煩雑にすると懸念されています。基本的に、すべての建築物の設計で省エネ計算が必要となるためです。省エネ計算を省ける「仕様基準」は、市場に流通するすべての設備機器を網羅した計算は不可能というデメリットもあります。
省エネ基準に適合しない建築物は着工できないこと、また計算業務が増え、業務量が増大する懸念を踏まえ、対応を準備しておく必要があるでしょう。
スピーディーに設計・着工を進めるためにも、複雑な手順が必要な省エネ計算はプロへの外注がおすすめです。
建物の省エネ計算は、実績豊富な「環境・省エネルギー計算センター」に相談!
建築物の省エネ性能は、一般の人には難解なテーマです。建築士は建築主が持つ知識や状況を踏まえ、建築主が理解できるよう、平易に説明しなければなりません。2025年4月からは原則的にすべての新築建築物が、省エネ基準に適合する必要があります。高い省エネ性能を持つ建築物は、コストもかかります。建築主の理解を得るためにも、建築士にはこれまで以上に、建築主に寄り添う姿勢が求められるでしょう。
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