建築物の省エネ性能を評価する制度のひとつである、性能向上計画認定住宅。
ZEBや認定炭素住宅などと比較すると認知度が低いため、概要や取得する利点について知りたい方もいるでしょう。
この記事では性能向上計画認定住宅のメリットや注意点、実際の申請方法についてわかりやすく解説します。
性能向上計画認定住宅とは
性能向上計画認定住宅は、省エネ性能の向上を目指す建築物の消費エネルギー性能が一定の誘導基準に適合している場合、所轄行政庁が省エネ性能の高さを認定する制度です。
性能向上計画認定住宅の最も大きな恩恵は、容積率特例です。
省エネ性能向上を目的とした設備を設置する場合、容積率特例を利用すれば通常の建築物の床面積を超える部分(上限10%)を不算入にできます。
大規模非住宅で燃料電池設備などの省エネルギー設備を採用する場合に、メリットが大きい特例です。
認定の対象となる工事内容
性能向上計画認定は、住宅・非住宅ともに認定を受けられます。
対象となる工事は、下記のとおりです。
・建築物の新築工事
・建築物の増築、改築、修繕
・建築物の模様替え
・空気調和設備等の改修
上記工事で、建築物の省エネ性能向上を目的としたもののみ対象です。
容積率特例の対象となる省エネ性能向上設備
性能向上計画認定住宅で容積率特例の対象設備は、下記の7点です。
・太陽高熱集熱設備
・燃料電池設備
・コージェネレーション設備
・地域熱供給設備
・蓄熱設備
・蓄電池(再生可能エネルギー発電設備と連携し、床に備え付けるもののみ)
・全熱交換器
上記の設備を設ける部分の床面積合計が、通常の建築物の床面積を超える部分(上限10%)を不算入にできます。
低炭素建築物認定制度との違い
性能向上計画認定制度と低炭素建築物認定制度は、どちらも建築物の省エネ性能向上が目的の制度です。
2つの条件の違いを表にまとめました。
性能向上計画認定制度 |
低炭素建築物認定制度 |
|
再生可能エネルギー利用設備の導入 |
なし |
必須 |
都市におけるCO2削減措置 |
なし |
節水設備や雨水利用など9項目から 1項目以上を選択 |
対象地域 |
地域限定なし |
市街化区域等 |
住宅ローン減税 |
なし |
あり |
登録免許税の特例 |
なし |
あり |
容積率特例の上限 |
延べ面積10% |
延べ面積5% |
引用:国土交通省「性能向上計画認定制度改正ポイント」
低炭素建築物認定制度は条件が厳しい分、住宅ローン減税などの恩恵が受けられます。
性能向上計画認定制度は、容積率特例を受けたい場合にメリットが高いでしょう。
2022年10月改正!性能向上計画認定制度の変更点
2050年のカーボンニュートラルに向けて、2022年10月に建築物省エネ法が改正されました。
それに伴って変更された、性能向上計画認定制度の改正点について4つ解説します。
共同住宅や複合建築物の認定申請単位の変更
共同住宅や複合建築物で性能向上計画認定を受ける場合、改正前は住戸・非住宅部分全体が認定対象でした。
改正後は、住戸単位ではなく住居部分全体が認定対象です。
引用:国土交通省「性能向上計画認定制度改正ポイント」
省エネ性能誘導基準値の改正
非住宅では改正により、省エネ性能誘導基準値がZEB・ZEH水準まで引き上げられました。
これは、掲載産業省資源エネルギー庁の「ZEBロードマップフォローアップ委員会」により、2030年までに新築建築物の平均でZEBの実現が求められているためです。
改正前と改正後の変更点は、下記のとおりです。
誘導基準改正前 |
誘導基準改正後 |
|
外皮性能 |
PAL*が基準値以下 |
改正前と同じ |
一次エネルギー消費性能 |
省エネ基準から20%以上削減 |
省エネ基準から用途に応じて30~40%以上削減 |
※設計一次エネルギー消費量の削減量に、太陽光発電設備による削減量を含まない
引用:国土交通省「性能向上計画認定制度改正ポイント」
改正前の一次エネルギー消費性能の条件は、建築物の規模や使用目的にかかわらず省エネ基準から20%以上削減が求められました。
改正後は、建築物の規模や使用目的で誘導基準が異なります。
建築物 |
誘導基準 |
事務所・学校・工場等 |
省エネ基準から40%以上削減 (誘導BEI≦0.6) |
ホテル・病院・百貨店・飲食店・集会所等 |
省エネ基準から30%以上削減 (誘導BEI≦0.7) |
誘導基準は厳しくなりましたが、それぞれの建築物に適した数値が設定されています。
計算方法に住宅仕様基準が追加
戸建て住宅や共同住宅等の計算方法に、住宅仕様基準(誘導仕様基準)が追加されました。
それに伴い、外皮基準における住棟評価が廃止されます。
引用:国土交通省「性能向上計画認定制度改正ポイント」
非住宅に変更はなく、標準入力法とモデル建物法が使用可能です。
既存建築物の増改築についての基準緩和
既存建築物を増築・改築・改修する場合、改正前は建築物全体で誘導基準に適合させるのが条件でした。
改正後は、増改築などを行う部分のみ誘導基準適合が必要になり、建築物全体で省エネ基準レベルに適合するのが基本です。
基準の緩和は、増改築時に性能向上計画認定を受けるハードルを低くし、既存住宅の省エネ適合を促進するのが目的です。
性能向上計画認定住宅を取得する4つのメリット
性能向上計画認定住宅を取得する主なメリットを、4つ解説します。
容積率の特例を受けられる
性能向上計画認定住宅で最も大きなメリットは、容積率の特例を受けられる点です。
原則的に建築物は、土地の大きさに対し容積率の上限が決められており、上限以上の建築物を建てるのは違法となります。
そのため、建築後に省エネ設備を設置しようとしても、容積率を超えるため実現できないケースも少なくありません。
性能向上計画認定住宅として容積率特例を受けられると、容積率ギリギリの建築物でも省エネ設備を採用できる可能性が高まります。
省エネ性能を向上させたい企業にとっても、省エネを促進したい国にとっても魅力的な特例と言えるでしょう。
光熱費を削減できる
性能向上計画認定を受けるために省エネ性能を向上させれば、必然的に光熱費の削減が実現します。
例えばZEB誘導水準を満たした工場を建築すれば、一般的な省エネ建築物よりも年間40%以上の光熱費削減が期待できるでしょう。
ZEB誘導基準を満たす建築物の初期費用は、一般的な省エネ建築物よりも9%程度高くなるとされていますが、引き渡し後の光熱費を考慮すればメリットの方が大きいと言えます。
快適性や生産性が向上する
省エネ性能の高い建築物は断熱性が高く、性能の高い冷暖房器具などを採用しているため、室内空間の快適性が向上します。
節約や省エネのために冷暖房などを我慢しなくても、小さいエネルギーで室内環境を過ごしやすい状態に保てるでしょう。
健康的で快適な室内は、働く人の生産性を向上させたり、訪れる人の購買意欲などを促進したりするなどの効果が期待できるため、企業にとってメリットが高いと言えます。
不動産価値が高まる
近年、SDGsなど世界規模で環境配慮行動に対する評価が高まっており、省エネ性能の高い不動産の価値が上昇しています。
テナントとして貸し出す場合、光熱費削減効果と不動産価値の高さなどから、賃料を高く設定しやすくなるでしょう。
また、性能向上計画認定住宅を所有している企業の評価も高まり、社会的地位の向上が期待できます。
株など投資をする際の基準として、企業の脱炭素に向けた取り組みを評価する人も多いので、資金調達を充実させたい場合にも有益でしょう。
性能向上計画認定住宅を取得する際の注意点
性能向上計画認定を容積率特例の恩恵が目的で取得する場合、面積配分やコストバランスに注意する必要があります。
容積率特例は指定された省エネ設備を設置する場所のみ有効で、単純に建築物の床面積を10%まで増やして良いというわけではありません。
工場にコージェネレーションを設置したいなど、大規模な計画は恩恵も大きいですが、規模が小さい場合は認定を受ける労力や設置コストの負担の方が増える恐れがあります。
建築主や設計者は、性能向上計画認定を検討する際、容積率特例の旨味がないと判断したら、低炭素建築物認定制度やZEBなど他の省エネ制度と比較して最も有益なものを選ぶのが大切です。
非住宅における性能向上計画認定住宅の申請手続き
実際に、公共施設や工場などの非住宅が性能向上計画認定を申請する際の手続きについて詳しく解説します。
認定基準
性能向上計画認定に申請できる基準は、下記の4点です。
・省エネルギー性能が建築物省エネ法に基づく誘導基準を満たしている
・建築物エネルギー消費性能向上計画の事項が基本方針に照らして妥当である
・資金計画がエネルギー消費性能の向上のための建築物の新築等を実施するために適切である
・一度に複数の建築物の認定取得を目指す場合、すべての建築物で誘導基準を満たしている
前述した通り、省エネルギー性能の誘導基準はZEBの誘導基準であり、建築物の使用目的によって一次エネルギー消費性能の水準が異なるため注意しましょう。
申請の流れ
性能向上計画認定住宅の申請手続きの流れは、下記のとおりです。
引用:国土交通省「性能向上計画認定制度改正ポイント」
①審査機関に事前の技術的審査を依頼
②審査機関より適合証の発行
③所轄行政庁に認定申請書(適合証を添付)の提出
④所轄行政庁より認定証の交付
技術的審査の手続き方法や取扱いは、各所管行政庁で異なります。
技術的審査を依頼する前に、各所管行政庁に手続き方法を確認しましょう。
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建築物省エネ法の改正により、建築物の省エネルギー性能の向上がますます重要になってきました。
しかし、省エネ計算は、専門的な知識と経験が必要とされます。
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