日本では、社会環境の変化に対応するため、住宅性能評価や長期優良住宅制度が整備されています。
これらは、環境問題や資源の枯渇など、長期的な視野で見た住宅に求められる要件に対応するための制度です。
しかし、評価基準や優遇措置が異なるため、どちらの評価を受けるべきかの判断は目的によります。
本記事では、住宅性能評価と長期優良住宅の評価基準の違いや認定を受けることで得られる優遇措置・補助金の違いについて詳しく説明します。
住宅の評価を検討している方は、目的に応じて住宅性能評価と長期優良住宅のどちらを選ぶべきか参考にしてください。
住宅性能評価とは
住宅性能評価とは、国が定める評価基準に基づき住宅の性能を客観的に評価する制度です。
2000年に国土交通省による「住宅の品質確保の促進等に関する法律」に基づいて施行されました。
この評価は、国に登録された第三者機関によって行われます。
住宅性能評価は日本住宅性能表示基準に則って評価を行うため、設計者や建築会社が異なる住宅でも性能を一律に評価できます。
住宅性能評価を受けて一定以上の性能を認められた住宅には、住宅性能評価書が交付され高い性能を持つ住宅であることが証明されます。
長期優良住宅とは
長期優良住宅とは、長期にわたって良好な住宅環境で生活がおくれることを認められた住宅です。
2009年に施行された「長期優良住宅の普及の促進に関する法律」に基づき、新築住宅の認定は2009年より、既存住宅を増築・改築する場合の認定は2016年よりスタートしました。
長期優良住宅は、国が定めた長期優良住宅認定制度の基準をクリアする事で適合証が交付されます。
そして、所管行政庁に申請することで長期優良住宅の認定を受けることができます。
長期優良住宅の認定を受けた住宅は、国から「将来に渡り良好な住宅環境で長く住み続けられる住宅」であることを認められた証明となります。
このように、長期優良住宅は、将来的な住宅需要に対応する上で重要な制度であり、消費者にとっても高品質な住宅を選ぶ上での指標となります。
住宅性能評価と長期優良住宅の違いとは?
住宅性能評価と長期優良住宅はどちらも「良い住宅」であることを証明する制度です。
しかし、それぞれの制度には評価基準や優遇措置・補助金に違いがあります。
そのため、住宅性能評価や長期優良住宅の認定を受ける際には、個別で特徴の違いを理解する必要があります。
次の章ではそれぞれの評価基準や優遇措置・補助金の違いを確認していきます。
住宅性能評価と長期優良住宅の基準の違い
住宅性能評価と長期優良住宅では、住宅の評価基準が異なります。
それぞれの評価基準は以下の通りです。
住宅性能評価の評価基準(10項目) | 長期優良住宅の評価基準(10項目) |
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住宅性能評価と長期優良住宅のそれぞれの評価項目の詳細を確認します。
住宅性能評価の評価項目の詳細
構造の安定
災害時における住宅の安全性は、住宅性能評価においても重要な項目の一つです。
特に、地震や防風、積雪が発生した際には、住宅の倒壊のリスクが懸念されます。
住宅性能評価においては、このような構造の安定性が評価され、等級が与えられた住宅は、大地震が起こったとしても倒壊のリスクが少なくなります。
劣化の軽減
住宅は時間の経過とともに経年劣化が進み、安定性や耐久性が低下するため、住宅性能評価においては、年月が経っても住宅に使用される材料が劣化しないような対策が評価されます。
適切な対策が行われた住宅であれば、安定した住環境を維持することができ、住宅の価値を保つことが可能です。
維持管理・更新への配慮
住宅において、水道管やガス管などの配管類は定期的な清掃や取替が必要です。
この項目では、配管の点検や清掃のしやすさ、故障時の補修のしやすさなどが評価されます。
適切な配管の点検や清掃が行われ、故障時には迅速な補修をすることで、住宅内の設備の長寿命化や安全性の確保が図られます。
温熱環境
暖房や冷房を効率的に行うためには、温熱環境への対策が重要なポイントとなります。
具体的には、壁や窓などの断熱面の対策や、設備や太陽光発電などの創エネルギーを総合的に評価します。
これらの対策が適切に行われた住宅であれば、暖房や冷房を効率的に行うことができ、快適な室内環境を維持することが可能です。
光・視環境
住宅内に入る光の量は、生活を送る上で重要な要素となります。
この項目では、建物の窓がどのくらいの大きさでどこに設けられているのかを評価します。
適切な窓の大きさや位置が設定された住宅であれば、十分な自然光を取り入れることができ、室内の明るさを確保することが可能です。
空気環境
住宅室内の空気中には、一酸化炭素や二酸化炭素などの様々な化学物質が発生するため、健康な生活において空気環境の項目が重要です。
この項目では、建材の選定と住宅にどのような換気設備が整えられているかを評価します。
適切な換気設備が設置された住宅であれば、室内の空気が常に新鮮な状態を保ち、住人の健康を守ることができます。
音環境
特に共同住宅においては、周囲の音を遮る防音性能が快適な暮らしを送るために重要な要素となります。
この項目では、住戸からの音や下の住戸への音、隣の住戸への音などの伝わりにくさが評価されます。
適切な防音対策が行われると、住人は騒音に悩まされることなく、快適に暮らすことが可能です。
火災時の安全
火災発生時には、安全に避難することが重要です。
具体的には、火事が起きた際の炎の広がりにくさや、避難のしやすさなどが評価されます。
これらの要素が十分に考慮された住宅であれば、火災発生時でも迅速・安全な避難が可能となり、住人の命を守ることができます。
防犯対策
住宅性能評価において、防犯対策は重要な項目の一つです。
例えば、ドアや窓などの外部開口部に防犯上有効な建物部品が設置されているかが確認されます。
このような対策が適切に行われていることで、住宅のセキュリティが向上し、住人の安心・安全が確保されます。
高齢者への配慮
高齢になると、住宅内にある段差や階段が身体的な障害となることがあります。
この項目では、出入り口における段差の有無や、階段の勾配の軽減などがどの程度されているかを評価します。
適切な対策が行われていることで、高齢者でも住宅内での移動がスムーズに行えるようになり、いざというときに大規模な工事が不要となります。
長期優良住宅の評価項目の詳細
劣化対策
劣化対策の項目では、住宅が数世代に渡って利用できるかを確認します。
具体的には、少なくとも100年以上住宅を継続的に使用するための措置がとられているかを評価します。
住宅が長期的に利用できるかどうかは、資産価値を維持するためにも非常に重要です。
耐震性
耐震性の項目では、大地震に対する住宅の強度を確認します。
大規模地震力に対する変形を一定以下に抑制する措置がとられているかを評価します。
耐震性能は、地震が発生した時に住宅の倒壊を防ぎ、住民の命を守るために必要な要素です。
維持管理・更新の容易性
維持管理・更新の容易性の項目では、構造躯体に比べて耐用年数が短い内装・設備の維持管理への対策を確認します。
具体的には、給排水管などの点検や修理、更新のしやすさです。
住宅は長期的に使用するものであるため、維持管理や更新がしやすい住宅は長期的な住まいに適しています。
省エネルギー性
省エネルギー性の項目では、断熱性能などの省エネ性能がどの程度確保されているかを確認します。
省エネ法に規定するエネルギー基準をもとに住宅を評価します。
省エネ性能が高い住宅は、住民の暮らしにおいて電気代やガス代などの節約につながるため、経済的なメリットも期待できます。
可変性
可変性の項目は、ライフスタイルの変化に伴う住宅の間取り等の変更のしやすさを確認します。
具体的には天井の高さや設備配管の変更のしやすさなどを評価します。
可変性が高い住宅では、将来的に子どもを授かった場合や、高齢化による身体機能の低下に伴ってバリアフリー化が必要になった場合などに、住宅が住人のライフステージに適応しやすいです。
バリアフリー性
バリアフリー性の項目では、将来的なバリアフリー改修のしやすさを確認します。
具体的には、共用の廊下、階段、エレベーターのスペースの広さなどです。
将来的にバリアフリー改修が必要になる場合、住宅の構造や設備がどの程度改修しやすいかなどが評価対象になります。
居住環境
居住環境の項目では、住宅が地域の景観との調和がとれているかを評価します。
地域の良好な景観形成に配慮し、建物色や高さ、形状などが地域に適しているかを確認します。
住宅が地域に調和し、住民や近隣とのトラブルが生じないように配慮されているかが評価のポイントです。
住戸面積
住戸面積の項目では、良好な居住水準を確保するために必要な規模があるかを評価します。
戸建ての場合は、75平米以上、共同住宅は55平米以上、少なくとも1つの階は40平米以上が必要です。
住戸面積が狭いと、生活スペースが不足するため、快適な生活が送りづらくなることがあります。
維持保全計画
維持保全計画の項目では、将来を見越した定期点検・補修の計画が立てられているかを確認します。
住宅の建築時から維持保全計画が立てられ、点検や補修が定期的に行われているかなどを評価します。
定期点検や補修の計画の充実度が高いほど、住宅の長寿命化や修繕費の削減が可能です。
災害配慮
災害配慮の項目では、災害のリスクのある地域において、リスクの高さに応じた対策がとられているかを評価します。
住宅の安全性は住み手にとって最も重要な要素の一つです。
住宅性能評価により、災害に強い住宅かどうかを確認し、安心して生活するための基盤を整えることができます。
住宅性能評価と長期優良住宅の優遇措置・補助金の違い
住宅性能評価や長期優良住宅の認定を受けることでお金に関する優遇措置・補助金が得られます。
これらの優遇措置や補助金を理解した上で、住宅性能評価や長期優良住宅の利用を検討することが重要です。
次の章では、住宅性能評価と長期優良住宅の優遇措置・補助金の一例を紹介します。
それぞれの優遇措置・補助金を比較して自分にとって有益な制度を選んで下さい。
住宅性能評価の優遇措置
住宅性能評価の認定を受けることで、住宅購入者は地震保険料や紛争処理の優遇措置が受けられます。
地震保険料は獲得した等級によって以下のような割引がされます。
地震保険の優遇 | |
耐震等級3 | 定額の50%引き |
耐震等級2 | 定額の30%引き |
耐震等級1 | 定額の10%引き |
また、建設性能評価の認定を受けた住宅は、指定住宅紛争処理機関に対して、住宅に関連する紛争処理を一件あたり1万円で依頼できます。
もしもの場合でも安価な費用で紛争の解決を任せることができます。
住宅性能評価の認定を受けることで、お金に関する優遇措置が得られることは魅力的なポイントの一つです。
住宅性能評価の補助金
住宅性能評価を取得した、断熱等性能等級5かつ一次エネルギー消費量等級6を満たす住宅は、エコすまい支援事業の補助金を受けることができます。
エコすまい補助金制度の申請が通ると、100万円の補助金を受け取ることができます。
ただし、補助金対象者は子育て・若者世代に限られるので注意して下さい。
この制度は高額な補助金を受け取れるため、住宅性能評価で断熱等性能等級5かつ一次エネルギー消費量等級6を満たす住宅の方は申請を検討することをお勧めします。
長期優良住宅の優遇措置
長期優良住宅の認定を受けると、住宅ローン減税や住宅資金贈与の非課税枠の優遇が受けられます。
長期優良住宅の優遇措置は以下の通りです。
住宅ローン減税 | |
一般住宅 | 借入限度額 3,000万円 最大控除額 273万円 (3,000万円×0.7%)×13年 |
長期優良住宅 | 借入限度額 5,000万円 最大控除額 455万円 (5,000万円×0.7%)×13年 |
住宅資金贈与の非課税枠 | |
一般住宅 | 非課税枠が500万円 |
長期優良住宅 | 非課税枠が1,000万円 |
長期優良住宅の認定を受けることで、税金に関する多くの免税が受けられるためお得です。
長期優良住宅の補助金
長期優良住宅の認定を受けることで、地域型住宅グリーン化事業の補助金制度の利用が可能です。
この制度は、長期優良住宅のような優れた木造住宅を新築購入する場合に対して補助金が交付されるもので、長期優良住宅の認定を受けた住宅も対象となります。
申請が受理されると、140万円の補助金を受け取ることが可能です。
さらに、若者世帯が長期優良住宅の認定を受けてバリアフリー等級3を取得した場合追加で40万円が補助金として加算されます。
住宅性能評価と長期優良住宅の利用状況の違い
住宅性能評価と長期優良住宅の利用状況を確認します。
一般社団法人住宅生産団体連合会が3大都市圏(東京圏、名古屋圏、大阪圏)と地方都市圏(札幌市、仙台市、広島市、福岡市、静岡市)を対象に行った調査の結果は以下の通りです。
- 住宅性能評価を利用した住宅は全体の69.4%
- 長期優良住宅を利用した住宅は全体の86.3%
両制度ともに半数以上の住宅で利用されています。
住宅性能評価と比べて長期優良住宅の利用割合が多い理由は、住宅ローン減税の優遇措置が大きいためです。
住宅性能評価と長期優良住宅の利用を検討する際は、それぞれを利用するメリットを確認しましょう。
住宅性能評価と長期優良住宅を利用する主なメリットは以下の表です。
住宅性能評価を利用するメリット | 長期優良住宅を利用するメリット |
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なお、住宅性能評価と長期優良住宅のメリットについての詳細が知りたい方は以下の記事を参考にしてください。
参考:【2023年最新】長期優良住宅の認定に関する4つのメリットと4つのデメリットを専門家が徹底解説
参考:住宅性能評価を取得するメリット・デメリットをわかりやすく解説【2023年最新】
出典:「2021年度戸建て注文住宅の顧客実態調査」
結局、住宅性能評価と長期優良住宅のどちらを選ぶべき?
住宅性能評価と長期優良住宅に認定されることでそれぞれメリットがあります。
しかし、どちらを選ぶべきか悩んだ場合は、それぞれの評価基準や優遇措置を参考に選択することが大切です。
例えば、お金に関する優遇措置を多く受けたい場合は、長期優良住宅を受けることがおすすめです。
一方で、住宅性能評価は木造住宅の認定建設中と完成時に4回の審査が行われるため、住宅の性能に対して安心感を持って生活を送りたい方におすすめと言えます。
また、長期優良住宅には基準が設けられているため全体的に建築コストが上がってしまいます。一方で住宅性能評価には長期優良住宅のような基準が無いため、取得したい基準のみを満たすよう設計し建築コストを抑えることも可能となります。
住宅性能評価と長期優良住宅それぞれの評価基準や優遇措置を基にどちらを選ぶか検討して下さい。
また、住宅性能評価と長期優良住宅のどちらか一方だけでなく、両方を利用する選択肢もあります。
それぞれのメリットを両方とも得ることができ、良い住宅である安心感も得られます。
事業者で住宅性能評価を検討しているなら「環境・省エネルギー計算センター」へ相談しよう!
事業者が住宅性能評価を取得することで、住宅購入者からの注目を集めやすくなります。
しかし、住宅性能評価を取得するためには、複雑で難しい手続きが必要です。
「環境・省エネルギー計算センター」は、煩雑で難しい設計住宅性能評価の申請書作成を代行するサービスを行っています。
手間をかけずに設計住宅性能評価を取得したい事業者は、「環境・省エネルギー計算センター」までお問い合わせ下さい。
※補助金の詳細に関しましては管轄している事務局や行政庁にご確認ください。
このコラムに関して詳細を確認したい場合や、省エネ計算届出に関しての質問などはお気軽にお問い合わせください。
※個人の方はまずは身近な設計事務所や施工会社にご相談された方が手続きがスムーズです。