こんにちは!環境・省エネルギー計算センターの尾熨斗(おのし)です。
「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律(建築物省エネ法)」の改正により、小規模建築物に対して、建築士から建築主へ省エネの必要性や効果に関する説明が義務化されることとなりました。
それが、令和3年4月から施行予定の『説明義務制度』です。今回は説明義務制度について解説させて頂きます。
説明義務制度とは、設計の際に建築士から建築主に対して、省エネ基準への適否等の説明を行うことを義務づけたもので、令和3年4月1日に施行予定の制度です。
対象は床面積の合計が300㎡未満の建築物について行う新築及び増改築です。なお、住宅、非住宅、複合建築物のいずれも対象となります。ただし、車庫や畜舎など、適用外となる建築物があります(※)
説明義務制度のねらい
この制度のねらいは建築士から建築主に対する説明を通じて、建築主の省エネに対する理解を促すとともに自らが使用することとなる建物の省エネ性能を高めようという意識をもつことにあります。
このため、単に建築物の省エネ基準への適合性を確認し、その結果を建築主に伝えるだけでなく、あらかじめ省エネの必要性や効果について情報提供をおこなうことが重要となります。
では、はじめに説明義務制度においての説明等の進め方についてみていきましょう。
ステップ1.情報提供(「省エネの必要性・効果」の情報提供)
ステップ2.「評価・説明の実施」に関する建築主の意思確認
ステップ3.「設計を行う住宅・建築物」の省エネ性能の計算・評価
ステップ4.「設計を行う住宅・建築物」の建築主への省エネ計算・評価結果の説明
これが、主な流れになります。
ほかに、増改築の評価や、評価の説明を行った後に設計変更がある場合についてなども、ありますので、後程解説させていただきます。
ステップ1.情報提供について
情報提供をする際、いつ情報提供を行うのか、情報提供の内容はどんなものかがポイントになります。
情報提供を行う時期・・・建築主が希望する省エネ性能等は設計内容に大きく関係するので事前相談の段階など、できるだけ早い時期に行いましょう。
情報提供の内容例・・・
⑴パリ協定に基づく、温室効果ガス排出量削減の目標達成のための、省エネ対策の必要性
⑵建築物省エネ法において、建物を新築や増改築をする場合に、建築主の省エネ基準に適合させる努力義務
⑶断熱性能を高めることや、日射遮蔽性能を高めることになどによる、快適性の向上
⑷省エネ性能を高めることによる、光熱費の削減効果
⑸室内の温熱環境と健康への影響
⑹省エネ性能が高い住宅・建築物への支援措置(補助金・減税・融資など)
⑺災害時等における建物の継続利用の可能性
⑻地域の気候及び風土に応じた住宅(気候風土適応住宅)
なお、省エネの必要性等の情報提供にあわせて、以下についても情報提供をおこない、できるだけ丁寧に細かく説明するなど、建築主の理解を得ておくことも重要です。
①省エネの必要性や効果についてだけでなく(外注する場合は)省エネ計算等に費用がかかること
②省エネ性能の計算の際に採用する計算方法によって精度や費用が異なってくること
③省エネ性能向上する必要がある場合は、建設費が上がり、工期も長くなる可能性があること
④省エネ性能を維持するためには建物完成後も適切なメンテナンスやそのための費用が必要なこと
ステップ2.建築主の意思確認について
建築主が評価・説明を希望しない場合・・・その意思を表明するために、意思表明書面を作成する必要があります。
建築主が評価・説明を希望する場合・・・意思表明書面は必要ありませんが、建築士が説明に用いた書面の写しを建築士事務所に保存します。
意思表明書面については建築主が作成し、建築士に提出します。
意思表明書面、説明を行った際に建築士が説明に用いた書面の写し、ともに建築士法に基づく保存図書として、建築士事務所の開設者が建築士事務所に15年間保存する必要があります。
ステップ3.省エネ性能の評価について
建築主の意思を確認したうえで、建築士は設計する建物について、省エネ性能を計算し、省エネ基準 に適合してるかどうかについて評価をおこないます。計算した結果、省エネ計算基準値を満たしていない場合は、どのような変更をすれば、基準値を満たすかを計算したうえで建築主に説明する必要があります。
増改築をおこなう場合の説明について
増改築を行う場合であっても、建物全体について省エネ基準への適否を評価したうえで、その結果を説明する必要があります。しかし、部分的な増改築を行う場合には、住宅・建物全体を省エネ基準に適合させるのは難しいケースもあるので、その場合には、増改築を行った部分は仕様規定に適合しているなど、増改築部分の改善状況などについても、併せて説明を行うことが必要と考えられます。
説明後の設計変更について
建築主に対して説明を行ったあとに設計変更が生じても改めて評価・説明を行う必要はありません。ただし、設計変更により省エネ基準の適応しなくなる場合には、建築主の意向に沿わない設計となる可能性があるため、再度説明を行う必要があります。
省エネ性能を高める措置について
設計した建物が省エネ基準に適合していない場合、省エネ性能を確保する為の措置として、建材や設備の変更、精度の高い計算方法への変更があります。それぞれの計画内容に応じた措置を検討し、説明を行います。
説明義務制度を実施する際に注意したいこと
建築主に対して、建築士から省エネの必要性や効果についての説明がしっかりとされていない場合、後にトラブルにつながることや、法令違反になることも考えられますので、注意が必要です。
以下のような説明方法は、法令に反する恐れがあります。
・評価・説明を行わない
・評価・説明を希望するかどうかの意思確認において、意図的に評価や説明をしない方向に誘導する
・建築士の責任において評価をおこなわない(建築士以外が主体となって評価している。)
・設計・施行・契約等に関する他の書面とあわせて説明書面を交付し、きちんと説明を行わない
・省エネ基準に不適合の場合に、省エネ性能を高める措置についての説明や、提案がない
まとめ
これまで小規模建築物に関しての省エネ計算義務はなかったため、省エネ計算を初めて知ったり、計算される建築士も多いと思います。令和3年4月以降は省エネ計算をしたうえでの説明は法律上の義務になりますので、上のようなポイントに気をつけて建築主に説明を行っていただければと思います。
弊社では、設計業務に忙しい建築士に代わり、省エネ計算を代行しておりますので、省エネ計算に関するご質問やご不明点がありましたら、お気軽にお問い合わせを頂ければと思います。
(※)適用外となる建築物
・居室を有しない、または高い開放性を有することにより、空調設備を設ける必要がないと想定できる建築物 (畜舎、自動車車庫等)
・保存のための措置により省エネ基準に適合させることが困難な建築物(文化財指定されている建築物等)
・仮設建築物 (建築基準法に規定する仮設建築物)
・10㎡以下の建築物の新築、増改築の規模が300㎡以上または、10㎡以下の増改築
このコラムに関して詳細を確認したい場合や、省エネ計算届出に関しての質問などはお気軽にお問い合わせください。
※個人の方はまずは身近な設計事務所や施工会社にご相談された方が手続きがスムーズです。