オフィスビルや商業施設など、人の住居目的以外の部分が2,000平方メートル以上ある建築物を「大規模非住宅建築物」と呼びます。
この建築物は、建築物省エネ法(建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律)において特に重要な位置づけとなっています。
2024年4月には基準が改正され、より環境に配慮した建築物が求められるようになりました。この記事では、大規模非住宅建築物の基本的な定義から基準改正まで、実務で必要な知識をわかりやすく解説していきます。
大規模非住宅建築物とは
大規模非住宅建築物は、建築物の用途や規模によって定められる重要な基準です。この区分に該当するかどうかで、建築物省エネ法における基準への適合義務が変わってきます。
そのため、設計の初期段階から、建築物がこの区分に該当するかどうかを正しく判断することが大切です。
大規模非住宅建築物の定義
この区分では、建築物の中で人の住居目的部分を除いた、床面積が2,000平方メートル以上ある建築物を指します。例えば、オフィスビル全体や大規模なショッピングモールなどが該当します。
この定義は、環境配慮に関する法律に基づく適合義務を適用するかどうかを決める際の基準となります。規模が大きい建築物ほど、環境対策による効果も大きくなるためです。
2,000平方メートル以上の非住宅部分とは
2,000平方メートル以上とは、一般的な小学校の体育館2つ分くらいの広さです。この基準は、建築物が社会に与える環境負荷を考慮して定められています。
対象となる部分には、事務所や店舗、工場など、人の住居以外の用途で使用される場所が含まれます。また、これらに付随する廊下や階段、機械室なども同様です。
複合用途建築物の場合は?
1階から3階までが店舗やオフィス、4階から上が住宅というような、一つの建築物の中に住宅部分とそれ以外の部分が混在する建築物を複合用途建築物と呼びます。この場合、店舗やオフィスなどの部分の床面積が2,000平方メートル以上あれば、この区分として扱われます。
例えば、地上10階建ての建築物で、1~3階が店舗、4~10階が住宅という場合、1~3階の店舗部分の面積が基準以上あれば対象となります。このとき、4階以上の住宅部分は面積に含まれません。
大規模非住宅建築物の対象となる建築物
この区分には、さまざまな用途の建築物が含まれます。用途によって使われ方や求められる性能が異なるため、2024年4月からは用途別に異なる基準が設けられました。
建築物の用途を正しく把握することは、適切な基準を選択する上で重要です。
ここでは、主な用途別の特徴を見ていきましょう。
オフィスビルや商業施設の場合
一般的なオフィスビルや商業施設は、この区分の代表的な例です。執務スペースや売り場など、人が活動する空間が中心となるため、照明や空調の使用量が大きな割合を占めます。
また、テナントビルの場合は、共用部の扱いや、各テナントの営業時間の違いなども考慮する必要があるでしょう。
学校・病院・ホテルの場合
学校、病院、ホテルなどは、一般的な建築物とは異なる特徴を持っています。例えば、病院は24時間稼働する設備が多く、ホテルは客室と共用部分で使用時間が大きく異なります。
そのため、これらの建築物では、用途に応じた環境対策が求められます。施設の運営形態や利用パターンを考慮した設計が重要になります。
工場等の場合
工場は、生産設備や倉庫など、他の用途とは異なる特徴的な空間を持っています。一般的に、事務所部分と工場部分が混在しており、それぞれの部分で必要な対策が異なります。
特に、生産設備や倉庫の空調方式、照明計画などは一般的な建築物とは異なるアプローチが必要です。また、24時間稼働の設備も多いため、運用時の省エネ性能が特に重要となります。
エネルギー消費性能基準の考え方
建築物の省エネ性能を評価するために、大規模非住宅建築物には「エネルギー消費性能基準」という基準が設けられています。この基準は、建築物全体でどれだけエネルギーを使うかを数値で評価します。
一次エネルギー消費量基準とは
建築物で使用されるすべてのエネルギーを合計した量のことです。具体的には、以下のような設備で使用するエネルギーを計算します。
- 空調設備(冷房・暖房)
- 換気設備
- 照明設備
- 給湯設備
- エレベーターなどの昇降機
- その他(事務機器など)
これらの設備ごとのエネルギー使用量を合計し、建築物全体の使用量を算出します。
一次エネルギー消費量の計算は以下のとおりです。
引用:国土交通省「省エネ基準の概要」
BEI(一次エネルギー消費性能)について
BEIは、建築物の省エネ性能を一つの数値で表す指標です。
この数値は、その建築物が標準的な建築物と比べてどれだけエネルギーを使うのかを示しています。
例えば、BEIが1.0の場合は標準的な建築物と同じエネルギー消費量、0.8の場合は標準的な建築物より20%少ないエネルギー消費量というように、数値が小さくなるほど省エネ性能が高いことを意味します。
この指標があることで、「この建築物は標準的な建築物よりどのくらい省エネなのか」が誰にでもわかりやすくなります。設計者は目標とする数値に向けて建築物の性能を高め、建築主は自分の建築物の省エネ性能を客観的に理解できます。
計算式はシンプルで、以下のようになります。
引用:省エネ基準の概要
設計した建築物の一次エネルギー消費量と、基準となる一次エネルギー消費量は以下のとおりです。
引用:省エネ基準の概要
2024年4月からは、建築物の用途によってBEIの基準値が0.75〜0.85に設定されています。これは、標準的な建築物と比べて15%〜25%のエネルギー消費量の削減が求められるということです。
2024年4月から大規模非住宅建築物の基準引き上げ
2024年4月から、大規模非住宅建築物の省エネ基準が引き上げられました。これは、2030年度に向けて段階的に環境性能を高めていく取り組みの一環です。
なぜ基準が引き上げられるのか
日本は2030年度までに、新築の建築物をZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)水準にすることを目指しています。そのため、段階的に基準を引き上げていくことになりました。
この区分の建築物は、全体のエネルギー使用量に大きな影響を与えるため、まずはここから基準引き上げが始まったのです。
基準改正の2つのポイント
今回の基準改正のポイントは大きく2つあります。
1つ目は、一定規模以上の大きな建築物が対象となることです。これは従来と変わらず、住宅以外の部分が2,000平方メートル以上の面積を持つ建築物が該当します。手続きも従来通りで、所管行政庁または登録判定機関による適合性判定を受け、建築確認の際に判定通知書の提出が必要です。
2つ目は、建築物の用途によって基準値が異なる点です。これは各用途における環境性能の実態を踏まえて、15%から25%の範囲で基準が強化されました。
このように用途別に基準値を設定することで、それぞれの建築物の特性に応じた、より実効性の高い環境対策が可能になります。
建築物用途別の新しい基準値
今まではどの用途も基準値は同じでした。新しい基準値は、建築物の用途によって3段階に分かれています。
施設 | 割合 | 削減率 |
工場等 | 0.75 | 25% |
事務所、学校、ホテル、百貨店等 | 0.8 | 20% |
病院、飲食店、集会所等 | 0.85 | 15% |
複数用途がある場合の評価方法
一つの建築物に複数の用途が混在する場合、それぞれの用途の基準値に応じて計算します。例えば、1階が店舗で上層階が事務所という建築物では、店舗部分と事務所部分それぞれの基準値を考慮して総合的に評価します。
建築物全体として基準値を満たせばよく、個々の用途ごとに基準値を満たす必要はありません。
増改築時の注意点
増改築後の床面積が2,000㎡以上となる場合も、新しい基準が適用されます。ただし、以下の場合は従来の基準が適用されます。
- 2024年4月より前に申請した案件
- 既存建築物の増改築
- 計画の変更申請
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大規模非住宅建築物の省エネ基準への適合は、計画において重要な要素です。基準改正により、より高度な性能が求められるようになりました。
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※専門的な内容となりますので、個人の方は設計事務所や施工会社を通してご相談された方がスムーズです。