建築や不動産関係の仕事をしていると、よく「CASBEE」(キャスビー)という言葉を耳にされるのではないでしょうか。
CASBEEといえば「建築物の環境性能を評価する手法」と理解されている方が多い思いますが、実はCASBEEは1種類だけではなくいくつかの種類が存在します。
CASBEEを学ぶにあたり、CASBEEの全体像と制度の目的を把握したうえで、CASBEEの種類や仕組みを学び、より理解を深めましょう。
この記事ではCASBEEについて、初めて触れる人にも分かりやすいように解説します。
この記事を読むことで、CASBEEについての基本的な知識が身に付き、自社の対象建物に適切な申請方法を選択できるようになりますので、ぜひ参考にしてください。
CASBEEの概要
最初に、CASBEEの基本的知識や、主な評価ツールの種類や対象となる建物について、順番に説明していきます。
CASBEEとは
CASBEEとは、英語のComprehensive Assessment System for Built Environment Efficiency(建築環境総合性能評価システム)の略語です。
2001年4月に国土交通省の支援のもと産官学共同プロジェクトとして設立された「建築物の総合的環境評価研究委員会」が開発した、建物の環境品質を総合的に評価するシステムです。
CASBEEの目的は、建築物の環境に対する様々な側面を客観的に評価することにあり、省エネルギーや環境負荷の少ない材料の使用などの環境配慮に加え、室内の快適性や景観への配慮なども含めた建物の環境品質を総合的に判断します。
CASBEEの評価ツール
CASBEEは継続的に開発とメンテナンスが実施されており、下図に示すような評価ツールが開発・公開され、「CASBEEファミリー」と呼ばれる評価ツール群が形成されています。
CASBEEについては「CASBEE認証」と「自治体版CASBEE」(届出)の大きく2つに分かれます。
さらにCASBEE認証には「CASBEE建築(新築)」と「CASBEE不動産」、2021年5月より認証開始となった「CASBEEウェルネスオフィス」など複数の種類があり、主な特徴は以下の通りです。
それぞれ、詳しく解説した記事があるので、ぜひ参考にしてください。
種類 | 特徴 | 詳細記事 |
CASBEE 建築 | 主に新築時の環境配慮設計を支援するためのツール。 | CASBEE 建築の詳細記事 |
CASBEE 不動産 | 築1年以上の建物を評価する。不動産におけるブランディングツールという位置づけ。 | CASBEE 不動産の詳細記事 |
CASBEE ウェルネスオフィス | 働く人により近い場所にある専有部の内装や什器計画、入居しているテナントの取り組みも評価対象に含む。 | CASBEE ウェルネスオフィスの詳細記事 |
評価対象建物
CASBEEの評価ツールによって評価対象建物は異なります。
ここでは、「CASBEE建築(新築)」と「CASBEE不動産」、「CASBEEウェルネスオフィス」の対象建築物について説明します。
CASBEE 建築の評価対象建物
CASBEE建築(新築)は、戸建住宅を除く全ての用途に適用可能で、用途区分は「非住宅系用途」と「住宅系用途」に大きく分けられ、戸建て住宅は対象外です。
なお、工場の評価では主に居住エリア(事務所など)を対象とし、生産エリアは評価対象外になります。
また、住宅系用途に区分される建築物は、「住居・宿泊部分」とそれ以外の共用部分とに分けて評価を行うのが特徴です。
CASBEE不動産
CASBEE不動産の評価対象は、竣工後1年以上経過した既存建築物です。
建築用途は、事務所・店舗・物流施設・集合住宅、それらの複合用途を含む建築物に限定されています。
CASBEEウェルネスオフィス
CASBEEウェルネスオフィスは、事務所及び事務所を含む複合用途ビルです。
複合用途ビルの場合は、主に事務所用途の部分を対象として評価を行います。
なお、複数フロアが評価対象の場合、評価はエリアごとに実施することも可能です。
自治体版CASBEE(届出)について
現在、一部の自治体では、一定規模以上の建築物を建てる際に環境計画書の提出を義務化しており、その際にCASBEE評価書の添付が必要です。
なお、各自治体の考え方や地域特性に応じて、CASBEEの評価基準や評価項目間の重み係数が変更されています。
床面積が2,000㎡以上の新築や増築は届出が義務とされ、2,000㎡未満の建築は届出任意としている自治体が多いです。
*2000㎡を超えている物件で、届出が必要になる役所かどうかは、以下の役所一覧をご確認ください。
地方自治体で実施している自治体版CASBEEの連絡先と届出期日
CASBEE認証の評価方法
ここまでお読み頂き、CASBEEの種類や評価対象建物に関してはご理解いただけたのではないでしょうか。
ここからは、CASBEE認証の各評価ツールについて、具体的な評価方法や評価ランクの考え方を説明します。
評価方法・評価項目に関する詳細は「CASBEEの評価項目をプロが解説!「新築建築物」か「既存不動産」によって評価が変わる!」で解説しています。
詳しく知りたい方はこちらも合わせてご確認ください。
CASBEE建築(新築)評価
CASBEE建築(新築)は、Q(Quality/建築物の環境品質)とL(Load:建築物の環境負荷)をそれぞれ個別に採点し、最終的にその結果をもとにBEE(Built Environment Efficiency/建築物の環境効果)を指標として評価します。
このBEEを総合評価として、次の5段階のランクが与えられます。
CASBEE建築(新築)の総合評価のランク
ランク | 評価 | ランク表示 | BEE値、Q値 |
S | 素晴らしい | ★★★★★ | BEE=3.0以上、かつQ=50以上 |
A | 大変よい | ★★★★ | BEE=1.5以上3.0未満 |
B+ | 良い | ★★★ | BEE=1.0以上1.5未満 |
B- | やや劣る | ★★ | BEE=0.5以上1.0未満 |
C | 劣る | ★ | BEE=0.5未満 |
CASBEE不動産評価
CASBEE不動産は不動産市場におけるブランディングツールに位置付けられ、不動産マーケット関係者が簡略的に評価することを目的として行うもので、CASBEE建築(新築)などの設計ツールとは異なる位置付けのものです。
不動産マーケット関係者とは、投資家、金融機関、不動産会社、ビルオーナー、仲介会社、テナント、不動産鑑定士などの方々と定義されています。
本ツールでは、まず必須事項を満たすことが求められており、必須項目のクリアだけでBランクが与えられます。評価の基準は以下の通りです。
ランク | 評価 | ランク表示 | 総合得点(100点満点) |
S | すばらしい | ★★★★★ | 78点以上 |
A | 大変よい | ★★★★ | 66点以上 |
B+ | 良い | ★★★ | 60点以上 |
B- | 必須項目を満足 | ★★ | 50点以上 |
CASBEEウェルネスオフィス評価
CASBEEウェルネスオフィス評価は、主に建物で働く人が健康で生産的に働くための環境性能を評価するのが特徴です。
CASBEE建築(新築)と同様に、全ての評価項目を5段階(レベル1〜レベル5)で採点し、建築基準法など、最低限の必須要件を満たしている場合はレベル1、評価時点の一般的な技術・社会水準に相当すると判断される場合はレベル3と評価できるような採点基準となっています。
CASBEEウェルネスオフィス総合評価のランク
ランク | 評価 | ランク表示 | 総合得点(100点満点) |
S | すばらしい | ★★★★★ | 75点以上 |
A | 大変よい | ★★★★ | 65点以上 |
B+ | 良い | ★★★ | 50点以上 |
B- | やや劣る | ★★ | 40点以上 |
C | 劣る | ★ | 40点未満 |
なお、採点基準は大項目として「基本性能」「運用管理」の2項目です。
CASBEEのことなら専門家に相談しよう!
上記の通り、CASBEEの申請に基づく各種計算は非常に複雑です。
慣れない人が対応すると計算ミスで手戻りが発生したり、建築着工した後で誤りが発覚すると、行政から施工やり直しを求められるなどのリスクがあります。
「環境・省エネルギー計算センター」では、CASBEEの専門家がスピーディーに対応し、設計や工事スケジュールに合わせた対応が可能です。
CASBEEの代行を検討する際は、豊富な実績が強みの「環境・省エネルギー計算センター」をぜひご相談ください。
CASBEE取得の流れについて
ここからは、CASBEE取得手続きの流れについて解説します。
民間が実施するCASBEE認証の手続きと、自治体版CASBEEの届出とは流れが違うので、それぞれ解説します。
CASBEE認証の流れ
CASBEE認証の流れは、以下の通りです。
①各種評価ツールを使って建物所有者(評価会社に外部委託可)が自ら評価する
②CASBEE評価認証機関に事前相談する
③CASBEE評価認証機関に認証申請する
④CASBEE評価員による審査実施
⑤CASBEE評価員から建物所有者(または代理者)との間で質疑応答
⑥CASBEE評価員による再審査実施
⑦CASBEE評価証明書の交付
※認証内容をCASBEE評価認証機関のホームページに公表
なお、CASBEE建築(新築)評価の対象は、延床面積300㎡以上の建築物であり、CASBEE不動産評価やCASBEEウェルネスオフィス評価は面積制限はありません。
自治体版CASBEEの届出の流れ
自治体版CASBEE届出の流れは、以下の通りです。
①各種評価ツールを使って建物所有者(評価会社に外部委託可)が自ら評価する
②届出書類を作成の上、自治体に提出する
③自治体からの指摘・追加資料提出に対応する
④自治体のチェックが終わると副本が返却される
2023年4月現在、24の自治体で自治体版CASBEE届出が義務化されています。
また、各自治体によって、提出要件が異なりますので留意が必要です。
届出に関しては各自治体の体裁に合わせた書類作成が必要で、事前に各自治体に問い合わせたうえで書類を提出すると比較的スムーズに届出が可能となります。
CASBEE導入のメリット
CASBEEを導入するメリットは、建物の建設、管理、販売などを行う際に環境性能を客観的に見える化できることです。
近年、パリ協定の目標達成やSDGsの推進といった観点や、従業員の生産性向上や就労者の健康増進配慮の観点からも建築物の総合的な環境対策の必要性は高まっています。
ここでは、CASBEE導入による建築主側のメリットと、自治体側のメリットとに分けて説明します。
建築主が導入するメリット
CASBEE導入により、建物所有者は保有する物件が環境性能や快適性に優れたものであることを株主や投資家にアピールできます。
特に高ランクである「Sランク」や「Aランク」の評価が得られるとより良い印象を与えることが可能です。
また、CASBEE認証を取得できれば、GRESBの加点対象になります。
これら不動産の環境性能評価にて高ランク評価を得ることで、テナント賃料の上昇や建物の利回り改善が期待でき、不動産価格が上昇する要因となります。
自治体が導入するメリット
自治体が自治体版CASBEEを導入するメリットとしては、建築主に評価書を提出させることにより、民間による環境対応の進捗状況を確認することが挙げられます。
CASBEEでは、国の基準などを参考に評価基準を定めていますが、自治体ごとの運用に際しては、自治体の定める条例などの基準に基づき、評価基準の見直しを行うことも可能です。
自治体の裁量の範囲内で、環境性能の高い建築物に容積率の割り増しなどのインセンティブを与えることで、高機能の建物の建設を誘導することができることも大きなメリットです。
CASBEEの費用
CASBEEの費用は、「審査手数料」と「申請代行手数料」の2つに分類されます。
取得する種類によって費用が変わります。
CASBEE建築(新築)・不動産・自治体の3種類で説明すると、CASBEE建築(新築)が最も高く、次にCASBEE不動産、自治体の順番で安くなります。
これには評価の量や複雑性が関係しており、手間とコストがかかるほど費用は高くなります。
詳しくは「CASBEEの費用はいくら?CASBEE代行でかかる費用の考え方について徹底解説」にて解説していますので、参考にしてください。
CASBEE認証取得がスタンダードな世界になり得る
今や企業経営において、SDGs・ESGの取り組みに関しては不可欠であるどころか、企業が存続する意義にも直結する重要な課題です。
CASBEEは、建築や不動産に関しては「環境配慮をしているかどうか」を数値化でき、SDGs・ESG経営の中でも最も進捗が把握しやすい指標の一つです。
建築や不動産は、企業活動に必要な財産であることを考えると、企業活動の存続には保有不動産の環境性能向上が求められ、その指標となるCASBEE認証取得が当然となる未来の到来は想像に難くありません。
SDGsの世界において、CASBEE認証は建築物の健康診断とも言え、認証取得がスタンダードな世界になるでしょう。
CASBEEのことでお悩みなら、一度ご相談ください!
CASBEEは複数の評価手法があり、申請には多数の書類やデータを完備する必要があるなど、評価機関との協議のためには専門知識が必要です。
また、CASBEE届出が必要な自治体であれば期限が設けられているため、万が一トラブルや不備が発見されて期限内に届出ができないとなれば、義務違反として罰せられる可能性もあります。
スムーズな申請・取得を行いたい場合、CASBEEの申請はプロに相談するのが好ましいでしょう。
多くのCASBEE申請代行業務の実績を誇る「環境・省エネルギー計算センター」では、当該業務をアウトソースしやすいように、安心価格、迅速な対応、要望に答える柔軟なサービスラインナップを揃えています。
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