近年、環境問題に配慮した建築物づくりが促進されており、一定規模以上の建築物を建てる際に環境計画書の提出を義務付ける自治体が増えています。
また、建築物の環境性能を評価する方法として、CASBEEを利用する自治体も少なくありません。
この記事ではCASBEEの届出義務の概要と、申請の流れについて解説します。
届出にかかる費用や注意点も紹介するので、届出を実施する際の参考にしてください。
CASBEE(建築環境総合性能システム)とは
CASBEE(キャスビー)とは、建築物の環境性能をさまざまな観点から客観的に評価するシステムです。
建築物の省エネ性能だけでなく、建築物の施工段階や維持管理時の環境負荷要素も評価対象である点が、他の環境性能評価システムにない特徴です。
CASBEEは、建築物の用途や評価目的に合わせた評価ツールが複数開発されており、まとめて「CASBEEファミリー」と呼ばれています。
引用:一般社団法人住宅・建築SDGs推進センター「CASBEEの概要」
自治体が利用しているツールは「CASBEE建築」が基本で、CASBEE建築の評価項目をベースにオリジナルの評価ソフトを開発している地域もあります。
評価対象
CASBEEが評価する対象は、建築物の環境品質(Q)と環境負荷(L)の2点です。
要素 | 目的 | 項目 |
建築物の環境品質(Q) | 仮想閉空間内の建物ユーザーの生活アメニティ向上 |
・室内環境 ・サービス性能 ・室外環境(敷地内) |
建築物の環境負荷(L) | 仮想閉空間を超えて公的環境に達する環境影響の負の側面 |
・エネルギー ・資源、マテリアル ・敷地外環境 |
建築物の環境負荷を分母、建築物の環境品質を分子とすることで、環境性能の指標となる環境性能効率(BEE)を算出します。
引用:一般社団法人住宅・建築SDGs推進センター「CASBEEによる評価のしくみ」
評価基準と採点方法
評価は各評価項目の採点基準に従って採点され、5段階にランク付けされます。
レベル3が標準的なレベルで、数字が大きいほど高評価です。
評価ランク
CASBEEの総合評価は、下記の5段階にランク付けされます。
ランク | ランク表示 | 評価 | 総合得点(100点満点) |
S | ★★★★★ | すばらしい | >75点以上 |
A | ★★★★ | 大変良い | ≧65点 |
B+ | ★★★ | 良い(標準的) | ≧50点 |
B- | ★★ | やや劣る | ≧40点 |
C | ★ | 劣る(建築基準法の最低限基準) | <40点 |
環境性能に優れた建築物だと評価されるのはB+以上のため、B-以下の建築物に指導を行う自治体もあるため、スムーズに届出を完了させたい場合はB+以上を目指しましょう。
評価結果は、下記のようなスコアシートで表されます。
引用:一般社団法人日本サステナブル建築協会「CASBEE評価方法と結果の表示」
CASBEEと他の環境性能評価との違い
建築物の環境性能を評価するツールは、CASBEE以外にも複数存在します。
ここでは、CASBEEと比較されやすい「BELS」や「LEED」との違いを解説します。
CASBEEとBELSの違い
BELS(ベルス)とは建築物省エネルギー性能表示制度の略称で、評価機関が建築物の省エネ性能を0~6の7段階でランク付けする制度です。
引用:国土交通省「建築物省エネ法に基づく省エネ性能表示制度事業者向け概要資料」
CASBEEが省エネ性能だけでなく、景観など建築物の総合的な環境性能を評価するのに対し、BELSは建築物の省エネ性能のみを評価します。
CASBEEとLEEDの違い
LEEDは米国の建築物環境性能総合評価システムで、下記7項目を評価した合計得点で、4段階の認証レベルに分けられます。
CASBEEと同じく、評価の目的に応じて6種類の認証システムが用意されている点も特徴として挙げられます。
引用:GREEN BUILDING JAPAN「LEEDとは」
CASBEEは日本基準、LEEDは国際基準の評価項目なのが大きな違いで、日本の特性に合わせるならCASBEE、世界基準の環境性能を求めるならLEEDが適しているでしょう。
地方自治体がCASBEE届出を義務化する目的
地方自治体が環境計画書にCASBEE評価認証を活用するのは、地域の特性や行政の考えにに応じて評価基準や評価項目等をカスタマイズできるためです。
自治体や地域にとって必要な環境性能を重点的に評価できるので親和性が高く、実用化しやすいといえます。
また、自治体による建築環境施策の達成状況の把握や目標設定にも活用しやすく、補助金制度等のインセンティブと連動させることで、建築主等の自主的な環境配慮の取り組みを促進しやすくなる狙いがあります。
CASBEEの届出を義務化している自治体一覧
CASBEEの届出を義務化している地方自治体は下記のとおりです。
※最新の情報は各地方自治体へお問い合わせください。
自治体 | 制度 | 対象建築物(床面積) | 届出期限 |
札幌市 | 札幌市建築物環境配慮制度 | 300㎡以上の新築・増改築建築物 | 工事着工21日前 |
埼玉県 | 埼玉県建築物環境配慮制度 | 2000㎡以上の新築・増改築建築物 | 工事着工21日前 |
さいたま市 | 建築物環境配慮制度 | 2000㎡以上の新築・増改築建築物 | 工事着工21日前 |
千葉市 | 千葉市建築物環境配慮制度 | 届出義務ではないが2000㎡以上の新築・増改築建築物では提出が基本 | 工事着工21日前 |
柏市 | 柏市建築物環境配慮制度 | 2000㎡以上の新築・増改築建築物 | 工事着工21日前 |
神奈川県 | 建築物温暖化対策計画書制度 | 2000㎡以上の新築・増改築建築物 | 建築確認申請21日前 |
横浜市 | 横浜市建築物環境配慮制度 | 2000㎡以上の新築・増改築建築物 | 建築確認申請21日前 |
川崎市 | 川崎市建築物環境配慮制度 | 2000㎡以上の新築・増改築建築物 | 建築確認申請21日前 |
新潟市 | 新潟市建築物環境総合性能評価制度 | 2000㎡以上の新築・増改築建築物 | 建築確認申請21日前 |
静岡県 | 静岡県建築物環境配慮制度 | 2000㎡以上の新築・増改築建築物 | 工事着工21日前 |
愛知県 | 愛知県建築物環境配慮制度 | 2000㎡以上の新築・増改築建築物 | 工事着工21日前 |
名古屋市 | 建築物環境配慮制度 | 2000㎡以上の新築・増改築建築物 | 工事着工21日前 |
京都府 | 特定建築物排出量削減計画 | 300㎡以上の新築、増改築建築物 | 工事着工21日前 |
京都市 | 建築物排出量削減計画 | 300㎡以上の新築、増改築建築物 | 工事着工21日前 |
大阪府 | 建築物環境配慮制度 | 2000㎡以上の新築・増改築建築物 | 工事着工21日前 |
大阪市 | 大阪市建築物総合環境評価制度 | 2000㎡以上の新築・増改築建築物 | 工事着工21日前 |
堺市 | 堺市建築物の総合環境配慮制度 | 2000㎡以上の新築・増改築建築物 | 工事着工21日前 |
兵庫県 | 兵庫県建築物環境性能評価制度 |
①2000m2以上の新築・増改築建築物 ②大規模の修繕・大規模の模様替にあたる部分の面積が2000m2以上の建築物 |
工事着工21日前 |
神戸市 | 神戸市建築物総合環境評価制度 |
①2000㎡以上の新築・増改築建築物 ②大規模の修繕・大規模の模様替にあたる部分の面積が2000㎡以上の建築物 |
工事着工21日前 |
鳥取県 | 鳥取県建築物環境配慮計画制度 | 2000㎡以上の新築・増改築建築物 | 工事着工21日前 |
広島市 | 広島市建築物環境配慮制度 | 2000㎡以上の新築・増改築建築物 | 工事着工21日前 |
徳島県 | 徳島県脱炭素社会の実現に向けた気候変動対策推進条例 | 2000㎡以上の新築・増改築建築物 | 工事着工21日前 |
福岡市 | 福岡市建築物環境配慮制度 | 2000㎡以上の新築・増改築建築物 | 工事着工21日前 |
北九州市 | 北九州市建築環境総合性能評価制度 | 2000㎡以上の新築・増改築建築物 | 工事着工21日前 |
熊本県 | 熊本県建築物環境配慮制度 | 2000㎡以上の新築・増改築建築物 | 工事着工21日前 |
CASBEE届出の手続きの流れ
CASBEE届出の流れは、自治体によって大きな違いはありません。
たとえば大阪市では、下記の流れで手続きを実施します。
引用:大阪市「大阪市の建築物環境配慮制度」
建築物環境配慮計画の作成時にCASBEEでの評価を行い、自治体に提出するのが一般的です。
CASBEE届出にかかる費用
基本的に、自治体へのCASBEE届出に手数料はかかりません。
申請代行会社等に申請を依頼する場合、代行手数料が発生します。
届出時の注意点やペナルティ事例
万が一、届出義務がある自治体で届出を怠った場合や虚偽の届出をおこなった場合、自治体が建築主に勧告し、従わない建築主にペナルティを加えるケースがあるため注意しましょう。
たとえば大阪市では、勧告に従わない建築主に対し住所や氏名などを公表する罰則を設けています。
届出義務のある自治体では、必ず期限までに届出を実施しましょう。
CASBEEの届出でよくある質問3選
CASBEEの届出で、よくある質問を3つ解説します。
CASBEE届出義務の提出期限は?
CASBEEの届出の提出期限は自治体によって異なりますが、工事着工の21日前か建築申請の21日前が一般的です。
提出期限を過ぎると勧告やペナルティを受け、施工に支障が生じる恐れがあるので、期限を厳守しましょう。
届出義務と表示義務の違いは?
CASBEE届出義務は自治体に評価結果の届出が義務なのに対し、表示制度は建築物の広告等をおこなう際に評価結果の表示を義務付ける制度です。
表示義務を設けている主な自治体は、下記のとおりです。
エリア | 自治体 |
北海道・東北 | 札幌市 |
関東・中部 | 柏市・埼玉県・神奈川県・川崎市・横浜市 |
関西 | 大阪府・大阪市・堺市・京都市・神戸市 |
中国・四国・九州 | 熊本県 |
建築物環境性能表ラベルの内容は、自治体によって特色があります。
引用:柏市「CASBEE柏(柏市建築物環境配慮制度)」
上位ランクを取得するメリットはある?
基本的に届出は、基準値であるB+を取得すればクリアできる自治体がほとんどです。
さらに自治体によって、上位ランクや高得点を取得した建築物に対しインセンティブを設けているケースもあります。
上位ランクへのインセンティブ | 対象の自治体 |
建築物における容積率の緩和 | 名古屋市・埼玉県・横浜市など |
助成制度の判断基準として利用 | 横浜市・川崎市・北九州市など |
顕彰制度の実施 | 静岡県・大阪府・京都市など |
自治体独自の認証制度の設定 | 横浜市 |
上位ランクを目指すと建築費用も高くなりやすいので、費用対効果があると感じられる場合は取得を検討しましょう。
まとめ
建築物の総合的な環境性能を評価するCASBEEは、評価項目や採点のカスタマイズが可能なため、各自治体の実情にあわせた環境性能評価が実施できるので需要が高まっています。
届出は期限が決められており、届出を怠るとペナルティが発生する恐れがあるため、届出義務があるエリアでは必ず提出しましょう。
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