近年、長期優良住宅と呼ばれる構造躯体の劣化対策・断熱性能・耐震性能などを備えた家が普及しています。
平成21年6月に制度化された長期優良住宅は、令和4年10月から新基準となり、認定基準の見直しや建築行為なし認定の導入などが行われています。
この記事では、長期優良住宅の概要や基準見直しによる変更点について詳しく解説していきます。
長期優良住宅の基準について知りたい方は、ぜひ最後までご覧ください。
長期優良住宅とは
長期優良住宅とは、長期にわたり良好な状態で使用するための措置が講じられた優良な住宅のことです。「長期優良住宅の普及の促進に関する法律」に基づいて認定されています。
長期優良住宅の認定制度は、平成21年6月から新築を対象とした認定が開始され、平成28年4月には既存住宅の増築・改築も認定対象となりました。
また令和4年10月からは、既存住宅に関する、建築確認を伴わない認定が開始されています。
長期優良住宅の認定制度は、その対象を広げながら普及の促進を図ってきました。
長期優良住宅の申請方法
長期優良住宅の認定を受けるには、着工前に長期優良住宅の建築及び維持保全に関する計画を作成し、所管行政庁に申請しなければなりません。
なお、上記所管行政庁への申請前に、登録住宅性能評価機関に長期使用構造等であるかの確認申請を行うことで確認書等が交付されます。
この確認書等は、所管行政庁への申請時に添付資料として提出が可能です。
登録住宅性能評価機関への長期使用構造等であるかの確認申請は必須ではありませんが、技術的審査としての側面があるため、所管行政庁への申請前に手続き(登録住宅性能評価機関への申請)を行うことが一般的です。
長期優良住宅の対象
長期優良住宅の対象となる種類は、以下の通りです。
- 新築
- 増築・改築
- 既存
- 新築戸建て(木造軸組)
- 共同住宅等
上記のうち、この記事では新築及び既存について解説しています。
長期優良住宅として所管行政庁から認定を受けるには、申請時に作成する長期優良住宅の建築及び維持保全に関する計画が、以下の基準に適合する必要があります。
- 住宅の構造および設備について長期にわたり良好な状態で使用するための措置が講じられていること
- 住宅の面積が良好な居住水準を確保するために必要な規模を有すること
- 地域の居住環境の維持・向上に配慮されたものであること
- 維持保全計画が適切なものであること
- 自然災害による被害の発生の防止、軽減に配慮がされたものであること
上記5つの要件をすべて満たす場合に、長期優良住宅の認定が受けられます。
出典:国土交通省「長期優良住宅のページ」
長期優良住宅の認定基準
長期優良住宅として認められるためには、10項目の認定基準に対する措置を講じ、所管行政庁へ申請する必要があります。
長期優良住宅の認定基準は、以下の表の通りです。
性能項目等 | 新築の認定基準 | |||
概要 | 一戸建ての住宅 | 共同住宅等 | ||
①劣化対策 | 劣化対策等級(構造躯体等) 等級3の構造の種類に応じた基準かつ以下の措置 | ◯ | ◯ | |
木造 | 床下空間の有効高さ確保及び床下・小屋裏の点検口設置 など | |||
鉄骨造 | 柱、梁、筋かいに使用している鋼材の厚さ区分に応じた防錆措置または上記木造の基準 | |||
鉄筋コンクリート造 | 水セメント比を減ずるか、かぶり厚さを増す | |||
②耐震性 | 次のいずれかに該当する場合 耐震等級(倒壊等防止)等級2(階数が2以下の木造建築物等で壁量計算による場合にあっては等級3) 耐震等級(倒壊等防止)等級1かつ安全限界時の層間変形を1/100(木造の場合1/40)以下 耐震等級(倒壊等防止) 等級1かつ各階の張り間方向及びけた行方向について所定の基準に適合するもの(鉄筋コンクリート造等の場合に限る) |
◯ | ◯ | |
③省エネルギー性 | 断熱等性能等級 等級5かつ一次エネルギー消費量等級 等級6 | ◯ | ◯ | |
④維持管理・更新の容易性 | 維持管理対策等級(専用配管)等級3 | ◯ | ◯ | |
維持管理対策等級(共用配管)等級3 更新対策(共用排水管)等級3 | ー | ◯ | ||
⑤可変性 | 躯体天井高さ2,650mm以上 | ー | ◯(共同住宅及び長屋に適用) | |
⑥バリアフリー性 | 高齢者等配慮対策等級(共用部分)等級3 ※一部の基準を除く |
ー | ◯ | |
⑦居住環境 | 地区計画、景観計画、条例によるまちなみ等の計画、建築協定、景観協定等の区域内にある場合には、これらの内容と調和を図る。 ※申請先の所管行政庁に確認が必要 |
◯ | ◯ | |
⑧住戸面積 | 一戸建ての住宅 床面積の合計75平米以上 | ※かつ少なくとも1の階の床面積が40平米以上(階段部分を除く面積) ※地域の実情を勘案して所管行政庁が別途面積を定める場合もある |
◯ | ◯ |
共同住宅等 床面積の合計40平米以上 | ||||
⑨維持保全計画 | 以下の部分・設備について定期的な点検・補修等に関する計画を策定 | ◯ | ◯ | |
・住宅の構造耐力上主要な部分 ・住宅の雨水の侵入を防止する部分 ・住宅に設ける給水又は排水のための設備 [政令で定めるものについて仕様並びに点検の項目及び時期を設定] |
||||
⑩災害配慮 | 災害発生のリスクのある地域においては、そのリスクの高さに応じて、所管行政庁が定めた措置を講じる。 ※申請先の所管行政庁に確認が必要 |
◯ | ◯ |
性能項目等 | 既存の認定基準(増築・改築) | |||
概要 | 一戸建ての住宅 | 共同住宅等 | ||
①劣化対策 | 劣化対策等級(構造躯体等) 等級3かつ構造の種類に応じた基準 | ◯ | ◯ | |
木造 | 床下空間の有効高さ確保及び床下・小屋裏の点検口設置 など (一定の条件を満たす場合は床下空間の有効高さ確保を要しない) | |||
鉄骨造 | 柱、梁、筋かいに使用している鋼材の厚さ区分に応じた防錆措置または上記木造の基準 | |||
鉄筋コンクリート造 | ・水セメント比を減ずる ・かぶり厚さを増す (中性化深さの測定によることも可能) |
|||
②耐震性 | 耐震等級(倒壊等防止) 等級1(新耐震基準相当) または品確法に定める免震建築物 |
◯ | ◯ | |
③省エネルギー性 | 断熱等性能等級 等級4 または 断熱等性能等級 等級3かつ一次エネルギー消費量等級 等級4 |
◯ | ◯ | |
④維持管理・更新の容易性 | 維持管理対策等級(専用配管)等級3 | ◯ | ◯ | |
維持管理対策等級(共用配管)等級3 更新対策(共用排水管)等級3 |
ー | ◯ | ||
⑤可変性 | 躯体天井高さ2,650mm以上 または居室天井高さ2,400mm以上 |
ー | ◯(共同住宅及び長屋に適用) | |
⑥バリアフリー性 | 高齢者等配慮対策等級(共用部分)等級3 ※一部の基準を除く ※各階を連絡する共用階段のうち少なくとも1つが、両側に手すりを設置した場合、エレベータに関する基準を適用しない。 |
ー | ◯ | |
⑦居住環境 | 地区計画、景観計画、条例によるまちなみ等の計画、建築協定、景観協定等の区域内にある場合には、これらの内容と調和を図る。 ※申請先の所管行政庁に確認が必要 |
◯ | ◯ | |
⑧住戸面積 | 一戸建ての住宅 床面積の合計75平米以上 | ※少なくとも1の階の床面積が40平米以上(階数部分を除く面積) ※地域の実情を勘案して所管行政庁が別に定める場合は、その面積要件を満たす必要がある |
◯ | ◯ |
共同住宅等 床面積の合計55平米以上(令和4年9月30日時点の基準) | ||||
⑨維持保全計画 | 以下の部分・設備について定期的な点検・補修等に関する計画を策定 | ◯ | ◯ | |
・住宅の構造耐力上主要な部分 ・住宅の雨水の侵入を防止する部分 ・住宅に設ける給水又は排水のための設備 [政令で定めるものについて仕様並びに点検の項目及び時期を設定] |
||||
⑩災害配慮 | 災害発生のリスクのある地域においては、そのリスクの高さに応じて、所管行政庁が定めた措置を講じる。 ※申請先の所管行政庁に確認が必要 |
◯ | ◯ |
上記の認定基準について、それぞれ詳しく解説します。
出典:国土交通省「長期優良住宅認定制度の概要について(新築版)」
出典:国土交通省「長期優良住宅認定制度の概要について(既存版)」
①:劣化対策
劣化対策として、数世代にわたり住宅の構造躯体が使用できることが求められます。
構造の種類に応じた基準がありますが、新築・既存共通の基準として劣化対策等級(構造躯体等) 等級3が必須です。
なお、劣化対策等級(構造躯体等)とは、構造躯体等に関する大規模な改修を必要とするまでの期間を伸ばすための対策のことを指し、以下が等級3になります。
- 劣化対策等級(構造躯体等)等級3
通常想定される自然条件及び維持管理の条件の下で3世代(おおむね75~90年)まで、大規模な改修工事を必要とするまでの期間を伸長するため必要な対策が講じられている
出典:一般社団法人 住宅性能評価・表示協会「新築住宅の住宅性能表示制度ガイド」
②:耐震性
耐震性では、極めて稀に発生する地震に対し、継続利用のための改修の容易化を図るため、損傷のレベルの低減を図ることが求められます。
なお、耐震等級(倒壊等防止)とは、地震に対する倒壊や崩壊などのしにくさを表すもので、等級1は以下の内容です。
- 耐震等級(倒壊等防止)等級1
極めて稀に(数百年に一度程度)発生する地震による力(建築基準法施行令第88条第3項に定めるもの)に対して倒壊、崩壊等しない程度
出典:一般社団法人 住宅性能評価・表示協会「新築住宅の住宅性能表示制度ガイド」
③:省エネルギー性
省エネルギー性では、必要な断熱性能等の省エネルギー性能が確保されていることが求められます。
なお、断熱等性能等級とは、外壁、窓等を通しての熱の損失を防止する性能の等級で、等級3及び等級4は以下の内容です。
- 断熱等性能等級 等級3
熱損失等の一定程度の削減のための対策が講じられている
- 断熱等性能等級 等級4
熱損失等の大きな削減のための対策(建築物エネルギー消費性能基準等を定める省令に定める建築物エネルギー消費性能基準に相当する程度)が講じられている
また、一次エネルギー消費量等級とは、一次エネルギー消費量の削減の程度を示す性能等級のことで、等級4は省エネ基準に該当します。
- 一次エネルギー消費量等級 等級4
BEI≦1.0(省エネ基準に該当)
出典:国土交通省「住宅性能表示制度における省エネ性能に係る上位等級の創設」
④:維持管理・更新の容易性
維持管理・更新の容易性では、構造躯体に比べて耐用年数が短い設備配管について、維持管理(点検・清掃・補修・更新)を容易に行うために必要な措置が講じられていることが求められます。
なお、維持管理対策等級(専用配管)及び維持管理対策等級(共用配管)とは、専用・共用部分の給排水管、給湯管及びガス管の維持管理(清掃、点検及び補修)を容易とするために必要な対策の程度を表すもので、等級3は「特に配慮した措置」のことです。
具体的には、それぞれ以下のすべてを満たす場合を指します。
- 維持管理対策等級(専用配管)等級3
a.共同住宅等で他の住戸に入らずに専用配管の維持管理を行うための対策
b.躯体を傷めないで点検及び補修を行うための対策
c.躯体も仕上げ材も傷めないで点検、清掃を行うための対策
- 維持管理対策等級(共用配管)等級3
a.躯体を傷めないで補修を行うための対策
b.躯体も仕上げ材も傷めないで点検、清掃を行うための対策
c.躯体も仕上げ材も傷めないで補修を行うための対策
d.専用住戸内に立ち入らずに点検、清掃及び補修を行うための対策
また、更新対策(共用排水管)等級とは、共同住宅の共用排水管の更新工事を軽減するために必要な対策の程度を表し、等級3は以下のすべてを満たす場合に該当します。
- 更新対策(共用排水管)等級 等級3
a.躯体を傷めないで排水管の更新を行うことができる
b.専用住戸内に立ち入らずに排水管の更新を行うことができる
c.共用排水管の更新時における、はつり工事や切断工事を軽減することができる
出典:一般社団法人 住宅性能評価・表示協会「4.配管の清掃のしやすさ、更新対策(維持管理・更新への配慮)」
⑤:可変性
可変性(共同住宅・長屋)では、居住者のライフスタイルの変化等に応じて間取りの変更が可能な措置が講じられていることが求められます。
⑥:バリアフリー性
バリアフリー性(共同住宅等)では、将来のバリアフリー改修に対応できるよう共用廊下等に必要なスペースが確保されていることが求められます。
なお、高齢者等配慮対策等級(共用部分)とは、共同住宅等のうち、主に建物出入口から住戸の玄関までの間における高齢者等への配慮のために必要な対策の程度を表すものです。
「バリアフリー性」の認定基準としては等級3が必要ですが、等級の判断は移動時の安全性に配慮した処置の程度と介助の容易性に配慮した処置の程度の組み合わせで決まります。
出典:一般社団法人 住宅性能評価・表示協会「9.高齢者や障害者への配慮(高齢者等への配慮)」
⑦:居住環境
長期優良住宅では、居住環境として、良好な景観の形成その他の地域における居住環境の維持及び向上に配慮されたものであることが求められます。
具体的には、地区計画、景観計画、条例によるまちなみ等の計画、建築協定、景観協定等の区域内にある場合、これらの内容と調和を図ることが必要です。
⑧:住戸面積
長期優良住宅では、住戸面積として、良好な居住水準を確保するために必要な規模を有することが求められます。
一戸建ての住宅と共同住宅等では、最低限必要な面積基準が異なるため、注意が必要です。
⑨:維持保全計画
維持保全計画については、建築時から将来を見越して、定期的な点検・補修等に関する計画が策定されていることが求められます。
具体的には、以下の部分・設備について定期的な点検・補修等に関する計画を策定しなければなりません。
- 住宅の構造耐力上主要な部分
- 住宅の雨水の侵入を防止する部分
- 住宅に設ける給水又は排水のための設備
⑩:災害配慮
災害配慮として、自然災害による被害の発生の防止又は軽減に配慮されたものであることが求められます。
具体的には、災害発生のリスクのある地域においては、そのリスクの高さに応じて、所管行政庁が定めた措置を講じることが必要です。
長期優良住宅の認定基準の見直しについて
長期優良住宅の認定基準については、直近で令和4年10月に見直しが行われ、新基準が開始されました。
この見直しの理由は、建築行為を伴わない既存住宅も長期優良住宅の認定対象とするためや、2050年のカーボンニュートラル、脱炭素社会を実現するためのものです。
なお、災害の激甚化・頻発化を踏まえた改正については、令和4年2月から施行されています。
長期優良住宅の認定基準の見直しで変更した内容
令和4年10月に行われた長期優良住宅の認定基準の見直しにより、変更した内容は以下の通りです。
【改正法により新設された認定基準】
・災害配慮基準の創設(令和4年2月20日施行)
・建築行為を伴わない既存住宅の認定制度の創設
災害配慮基準の創設では、認定基準として「自然災害による被害の発生の防止又は軽減に配慮されたものであること」が新たに追加されました。
また、建築行為を伴わない既存住宅の認定制度の創設では、新築後に(増改築せずに)認定を受ける場合は新築基準、増改築後に認定を受ける場合は増改築基準が適用されます。
【2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現】
・省エネ性能の上位等級の創設(住宅性能表示)
・省エネ対策の強化
省エネ性能の上位等級の創設(住宅性能表示)では、ZEH水準を上回る断熱等性能等級6・7を創設し、省エネ性能(断熱等性能等級、一次エネルギー消費量等級)の取得が必須化されました。
また、省エネ対策の強化では、断熱性能についてZEH水準の基準への引き上げや、一次エネルギー消費量性能についてZEH水準の基準の追加、必要な壁量の基準を現行の耐震等級3に引き上げる等の暫定的な措置がなされています。
出典:一般社団法人 住宅性能評価・表示協会「令和3年5月28日公布(令和4年10月1日施行)の改正内容について」
長期優良住宅の申請書作成なら「環境・省エネルギー計算センター」に相談しよう!
この記事では、長期優良住宅の概要や基準見直しによる変更点について解説しました。
長期優良住宅の認定を受けると、税の特例措置や補助金が受けられるといったメリットがあります。
一方で、申請するには認定基準見直しの内容を踏まえることや、着工前の事前準備が不可欠です。
申請する場合には、適切な手順で準備を行ないましょう。
「環境・省エネルギー計算センター」では、長期優良住宅のための省エネ計算や申請書作成代行業務を承っております。
長期優良住宅の申請書作成でお悩みの場合は、ぜひご相談ください。
※補助金の詳細に関しましては管轄している事務局や行政庁にご確認ください。
このコラムに関して詳細を確認したい場合や、省エネ計算届出に関しての質問などはお気軽にお問い合わせください。
※個人の方はまずは身近な設計事務所や施工会社にご相談された方が手続きがスムーズです。